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第12話
カイリと一緒に絵を描き出して1ヶ月が経った頃。
風の噂であの人が出品した絵が最優秀賞を受賞したと聞いた。
僕の描き殴ったあれを修復する事すらできなかったのだろう。
題は『闇のマリア』
これまでの作風とは一転、個性的でユニークな世界観が反響を呼んだのだとか。
もちろん、それには続きがあって
契約した出版社が依頼を出したところこれまでのそれとは思えないスピードの遅さと画力の低さを指摘され、別の誰かに描かせていたことが発覚。
不正の発覚は受賞を取り消す事態となった。
出版社たちは『闇のマリア』の本当の作者を今も探しているそうだ。
「リオン、みんな君のこと探してるみたいだよ。
描いたのは僕です!って行かなくていいの?」
からかうように笑うカイリが呼んだ名は
名前すら与えられなかった僕が初めてカイリにもらった名前。
世界でたった一つの、僕の呼び名だ。
「僕はカイリと絵を描いていたいんだ。
…お金の為に描くより、今はカイリと居たい。」
「〜〜〜もうっ!本当リオンって謙虚だよね!
俺は嬉しいけどさ!!」
「…そういうわけじゃ、ないんだけど…。」
僕は、カイリから呼び名だけじゃなく
もう一つ、大切なものをもらった。
「カイリの隣に…居られることが嬉しいの。」
この、誰にも言う事のない
いつのまにか生まれてしまった小さな花。
カイリには大切な恋人がいる。
この地でしっかり経験を積んで
いつかその恋人を迎えに行くらしい。
だから僕のこの気持ちは届かないものだし、
届けようなんて欲ははじめからない。
ただ、カイリがその恋人を迎えに行く手助けになれるのなら嬉しい。
それまでカイリの隣で、相棒のような存在になって一緒に絵を描いていきたい。
それが僕の一番の幸せ。
好きな人が幸せの道を歩んでくれることが、僕にとって一番の幸せだから。
「…ねえ、リオン。次の大会のテーマ見てよ。」
「…え、これって──。」
「珍しいよね。こんなにアバウトなテーマも。」
そのテーマには、すごく見覚えがあった。
『今までに見た中で一番綺麗なもの』
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