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第13話
『今までに見た中で一番綺麗なもの』
いつか、どこかで聞いたことがあるようなそのテーマに
僕たちは思わずクスリと笑い合った。
カイリと出会ってから、僕の中の一番は毎日のように更新されている。
同じ空でも、昨日よりも今日の空の方が輝いているし
海も、太陽も同じ。
「…カイリは、何かある?」
「んーー、そうだな。
…人物画になっちゃうけどやっぱり…。」
カイリは棚から一つのアルバムを取り出した。
パラパラと幾つもの写真をめくって
あるページで手を止める。
「俺の中ではやっぱり、不動の一位かな。」
浜辺で大きな帽子を被り、風に揺れる髪の毛を手で押さえている姿。
柔らかく微笑む顔は、どこまでも潔白で純粋そうで
艶やかな可愛らしい女性だった。
「ふふっ、だと思った。
僕も……なにを描くか決めた。」
「お!リオンなに描くの?」
「ひーみつ〜!
完成したら、見せてあげる。」
互いが相棒、そしてライバル。
僕とカイリの出品する絵は共に人物画だ。
遠くの地で今もカイリの帰りを待っている恋人
それがカイリの描く“一番綺麗なもの”。
そして
僕が描くのは
……それを描いている、カイリ。
あなたに出会えて世界は変わった。
暗闇に縛り付けられていた僕を、
光の差し込む外の世界に連れ出してくれた。
僕が見る綺麗なものの隣には、いつもカイリがいた。
カイリの存在こそ、僕にとって何よりも綺麗なものだ。
そしてそんなカイリが恋人を思い出して見せる優しい表情は
どこまでも苦しくて、痛くて、泣きたくなるほどに綺麗だ。
締め切りは3ヶ月も先だけど
僕にはきっと、それ以上に綺麗なものなんてできそうにないから。
僕の失恋という水面の上に
美しく咲き誇る強くて真っ直ぐな花のようなあなたを
この胸の痛みを代償に
きっと描こう。
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