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第113話★蒲田にて(33)

 椅子からベッドへなだれこむように移動した2人は、服を脱ぐのもそこそこに、口づけに戻っていた。  爪切りやら何やらでさんざん焦らされた怜の体は、歯止めが利かないほどの渇望に溢れている。それは薫も同じだった。舌を絡ませながら必死で怜の腰を抱き寄せ、首筋と言わず鎖骨と言わず唇を落としてくる。薫に触れられた場所のすべてに火花のような快感が走り、怜は耐え切れず喉笛をさらして喘いだ。 「あ、あぁ……はやく」 「お前の体、な、ならさないと」 「んっ、爪切りが先とか、言ってた……くせに」  気を逸らすために薫をからかう。薫は怜の首に顔をうずめたまま、悔しそうに呻いた。火傷しそうな熱さの屹立が、さっきから怜の太腿を突き刺すように動いている。 「だめだ……俺の負けでいいから、早く、挿れさせてくれ」 「最初っから、がっついてもよかった、のに、んっ、強がるから……あぁん」  薫は怒ったような顔で身を起こした。デスクの引き出しに手を伸ばす。欲望が張り詰めすぎて、手が震えている。下から2段目の引き出しをやっとのことで開けると、薫はローションを乱暴に引っ張り出した。  本当に余裕がないようだ。バラバラと他の物も飛び出たのに、薫は全て無視し引き出しも閉めずにローションの蓋を開けた。まだ温まっていないローションが怜の腹の上に垂れる。冷たい感覚が、逆に怜を煽った。こんなにぶるぶる震えながらも、薫は怜の中にいきなり冷たいものを入れようとはしないのだ。  ローションにまみれた手が、怜の屹立を包んでしごき上げ、怜は目をつぶって強烈な波に耐えた。 「や、やだダメ、イっちゃう」  薫は聞こえていないようだった。必死になりすぎて、息がおかしくなっている。時折漏れるヒュッという呼吸音は、怜の耳を鋭い針のように刺した。  ローションが温まるまで、死にそうな息で耐えて耐えて、薫は再び怜の唇を貪りながら、怜の後腔に一気に2本、指を挿れた。  あぁ……薫さんの指……。  強烈な存在感だった。脳天まで快感が突き抜けていく。体が震え、怜は思わず薫にしがみついた。くぐもった呻き声が喉から漏れる。体の奥が勝手に開き、ねだるように腰が浮く。  指はほんのわずか中を上下しただけで3本に増えた。だめ、足りない、足りない。  目が霞む。薫が欲しくて欲しくて、体が破裂しそうだ。 「あっ、ああ、あ!!」  薫の指が中で曲がる。灼熱の快感が背骨を貫き、怜の先端から、ぶしゃっと体液が噴き出る。薫は低い唸り声を上げたかと思うと一気に怜に押し入った。 「ひ、あぁっ」  止められない。すでに絶頂に至っていた体は、硬いものをねじこまれた途端にガクガク痙攣した。 「あ、あ、あぁ……!」 「く」  薫も自分で自分を止められないようだった。霞んだ目で腰を動かす。食いしばった歯の奥から獣のような呻きが漏れる。薫が動くたびに、息が止まるほどの絶頂が突き刺さる。 「ダメ、イってる、イってる、から!」  怜の制止など聞こえていない。薫の全身に緊張が走り、次の一瞬、熱い精液が怜の奥を爆発するように叩いた。 「あぁぁあ!!」  悶絶するような快感。一番感じるところに直接叩き込まれ、ビリビリと脳が感電する。白く、白く、激しいしびれに全ての細胞が侵され、満たされ、背中がしなる。  どさりと落ちてきた薫の体が重く愛しく、怜は震える手で抱き締める。肌がどこも敏感で、そうしているだけで強烈な満足感が込み上げる。  怜は朦朧としたまま、腰を緩やかに動かした。体の中で、薫の精液を感じ取る。ゆるゆると腰を振り、どろりとした温かい感触を味わう。 「ん……薫さん、大丈夫?」 「大丈夫……じゃないな。すまん」  薫の汗ばんだ体は心地よかった。  息を弾ませたまま、2人はそのままじっとしていた。あっという間に2人とも登りつめてしまったけれど、これで終わりにはならないことを2人とも理解していた。  次にいつできるのかわかんない。明日だと思ったら2年後だなんて、もう……嫌だ。  怜は体を動かし、薫の顔を引き寄せた。愛し気な眼差しが自分を覗き込んでいる。  ちゅ、と音を立てて口づけると、怜は微笑んだ。 「ね? 爪切りなんて後回し。できる時にいっぱいシないと……」  怜の言いたいことがわかったのだろう、薫は怜の髪をとかし、こめかみに口づけた。 「そうだな……もう、お預けはごめんだ」 「でしょ?」 「俺はいつになったらお前の足の爪を切れる?」 「ん~、どうかなぁ。2人で満足して、オレがプリンを食べたくなったらじゃない?」  薫は楽しそうに笑い、怜の耳に唇を寄せた。 「じゃあ……早めに満足させないとな」 「がんばって?」  薫が柔らかく怜の耳を咥えると、怜は再び快感の波に身を任せた。

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