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第147話★蒲田にて(38)
「あ、あぁっ」
バスルームは嬌声がよく響く。自分の声の反響が耳に入り、怜は朦朧と目を開いた。望み通りに満たされ、2度目の絶頂で背骨がビリビリしている。首筋に埋められた薫の唇から、呻き声の振動が喉の奥に直接届き、怜はのけぞった。
シャワーの下で、立ったまま右足を抱え上げられ、背中が温かい壁に当たっている。
体の中で薫がぐぷりと動き、怜は再び息を詰めた。
「待って、イってる、イって」
「怜」
なだめるような囁きが耳に吹き込まれ、怜は追い詰められていく。力強い律動に突き上げられて、深い部分がゴポリと泡立つ感覚がした。
「んく、あ」
薫にしがみつき背中を引っかきながら、怜は痙攣し続けている。敏感な腰がわしづかみにされていて、その手の平の力強さを感じ取る。快感から逃がしてもらえない。何度も、何度も突き上げられズルリと粘膜をこすられて、生暖かい精液が後腔から溢れて太ももを伝い落ちる。
「かおるさ、あ、あぁだめ、んんぅ」
白く痺れた脳がさらにビリビリ刺激され、怜は悶絶した。半開きの口からも、だらしなく震えるペニスからも、はしたない涎が流れている。
「怜、あぁ……怜」
低い囁きに、怜は暴れるように悶えた。腹の中全体が薫で満たされ、その液体が薫の囁きで揺らされる。際限なく揺さぶられ、掻き回され、体のすべてが溶かされる。
「あぁ溶けちゃう、とけるの、かおるさ、んっ……や……」
「とける……俺も……とける……」
うわごとのように薫も何か言っていた。理性が吹っ飛んだように、律動がさらに激しくなる。肉を打つ音が大きく響き、2人の激しい息がそれに重なる。
「ああ、あ、すごいの、きちゃう、あぁあ ああそこぉ、きもちい、きもちいい」
獣のような唸りと共に、薫がひときわ深く怜の中を突いた。強烈に熱い精液が、怜の内臓を叩く。
「イ……!」
ガクガク痙攣しながら、怜は薫からほとばしった欲をすべて呑み干し、貪欲にペニスを絞った。
吐き出された最後の一滴まで呑みながら、怜は薫のペニスの輪郭を味わい尽くす。脳がバカになっていて、腰を振るのがやめられない。少しずつ柔らかくなる薫の変化を楽しみ、ずるずるとペニスが出ていくまで、薫の肩にしがみついたまま快楽の中で泳ぐ。
薫はしばらく動かなかった。ぜえぜえと荒い息で肩だけを上下させながら、怜に体重を預けている。
「……疲れた?」
余韻に浸ったまま、怜は聞いた。
「ん……どうだろうな。お前相手だと……よくわからん」
薫の手が、ゆっくりと怜の腰を撫で上げる。
「まだ腰が動いてるぞ。怜。お前ほんと……」
頭を包み込まれ、薫の唇が怜のこめかみに当たる。柔らかい口づけが怜をなだめ、持ち上げられていた脚がやっと下ろされる。
「ほんと、セックス好きだな」
「薫さんが言う?」
低い笑い声。
「俺の相方はセックス狂いで体の相性は最高」
「で?」
「俺の形を覚えてて、咥えたら離さない」
「だから?」
「……お前が死んだら、俺は二度と、セックスができなくなる」
「それは困るね」
「ああ」
怜はにっこり笑うと、薫の髪を撫でた。濡れて額に貼りついた髪を持ち上げて後ろに撫でつける。素顔の薫はリラックスしていて、いたずらするように怜の頬の輪郭を指でなぞっている。
「それに……」
薫が続けた。
「お前が死んだら、俺は誰の爪も切れないし、誰の歯も磨けない」
「自分のをすればいいんじゃない?」
優しい光が薫の目をよぎった。
「自分のは作業でしかない。でもお前のは……生きる理由になる」
「なるほど?」
体が薫の方へ引き寄せられ、抱きしめられる。しっかりした温もりに包まれ、さっきまでとは違うのに、同じぐらい深い満足感に満たされる。
「というわけで、怜」
「何?」
「全部洗って髪も乾かしてやるから、その間プリンでも食べるか?」
薫の顔を引き寄せて、笑いながらキスをする。
「そんな魅力的な提案、乗らないわけないよね」
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