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第161話 『東京』にて(6)

「うお~い、宮城、配置完了まであとどれぐらいだ~?」  江藤が言うと、宮城がモニターの向こうで怒鳴る。 『あと15分です! くそ~、俺が一番トロいのか』  エンジン音と共に届いた悔しそうな宮城の声に、江藤は声をあげて笑った。宮城は今、中央線に沿って横に伸びきった前線を南に押し下げつつ、東へ移動している。埼玉から南下して敵の西へ回り込む薫と連動し、江藤のいる所にまとめて敵を追い込もうというのだ。 「心配すんな。充分やってる。薫がおかしいんだ」 『高田さんからも連絡きてました。なんか佐木さんがバグってるって』 「あいつだけ倍速で動いてんだよ。おっ噂をすればだ。薫、今どこだ?」  江藤は、宮城との会話に薫を入れた。薫の後ろでは車の音と一緒にアサルトライフルの音が断続的に聞こえてくる。 『あと9分で着く。陣は張り終わったか』 「宮城がまだ移動中だ」 『囲い込みながら動いてるんだから、いけるだろ。10分後に作戦を開始する』 「むちゃくちゃ言うな。宮城を待ってやれ」 『逃げたい奴は東に流せ。北に漏らさなければ、それでいい』  宮城が焦ったように言う。 『間に合わせます』 『頼む』  ガガガガ、という発砲音を残して薫の通話は切れた。 「なんか盛り上がってんな」 『佐木さんマジでおかしいですって』 「許してやれ。蒲田で何が何でも高遠を仕留めたいんだろ」  言いながら、江藤は雑居ビルだった建物の屋上から、北を眺めた。線路と道路の両方が視界に入っている。  薫は例のトンネル出口を爆破した後、高田に制圧を指示し、千葉の部隊を率いて即座に南へとって返した。中央線に沿ってだらだら散開した敵をまとめるべく、屋島に車を運転させて移動しながら、薫はあっという間に地図上にマーカーを置き、宮城に配置と移動を指示してきた。宮城は死に物狂いでその任務をこなしている最中だった。  ビルの屋上からは、全体の様子がよく見えた。  ひどい有り様だ。遠くでも近くでも、煙が夜空を灰色に薄めていた。至るところが燃えている。赤い舌のような炎が揺れ、不気味な音が聞こえてくる。物が壊れる音と燃える音が混ざり合った、獣の咆哮のような音だ。  消防車は使える取水施設から水を出し、必死で消火活動を続けていたが、ちょっとやそっとで収まる量ではない。 「後処理がめんどくさいな……これ……」  うんざりしながら呟く。薫はどこまで来てる? タブレット片手に、江藤は出番を待つ。自分の役目は、敵を蒲田に行かせないこと。もうすぐここは激戦区になる。  目をこらしているうち、数キロ先に大量のヘッドライトが見え始めた。住人が逃げた後の道が、火の間に黒い筋となって残っている。そこを、薫の率いる部隊が疾走してくる。焦った挙動の敵車両が、右へと視界を横切っていく。  江藤はタブレットで自分の陣の配置を再確認する。すべての道は封鎖し終えた。線路に上がる手段も封じてある。 「さぁて、始まるぞ。ひとりたりとも逃がすなよ」 「了解です」  江藤の宣言に、部下が応じた。

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