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第180話★蒲田にて(48)

 一度精を吐いて柔らかくなった薫は、怜が強く弱くしごいていると、再び勃ち上がった。微笑んでその先端をつつく。 「ほんとに溜まってたんだ」 「そりゃそうだろ。……お前は? 大丈夫なのか?」 「溜まってるに決まってるでしょ」 「いや、そっちじゃなくて」  あくまでも怜の体を気遣う薫に、怜は甘く笑いかけた。 「どうだろ。痛くなったら困るね~」  迷うふりをして薫への愛撫を続ける。十分な硬さを取り戻したモノをくるりと撫でる。 「ね、だから今夜は、オレの体に負担がかからないようにしないと」  いたずらを考える目つきに、薫が疑いの顔になる。 「それは、そうだが」  何をしようとしているか悟られる前に、怜は薫の体にまたがった。 「おい何する……」  起き上がろうとする薫の肩を押さえ、誘惑の目で意識を絡めとる。薫の屹立に右手を添えると、怜はゆっくりと腰を下ろしていく。 「あ……怜……」  ぎゅっと目をつぶって快感に耐える薫を見下ろしながら、怜は少しずつ薫を味わった。先端の膨らみをぬるりと呑み、長く太いシャフトに体が開かれていくのを楽しむ。奥の一番感じる場所は、もうずっと待ち受けていた。そこに亀頭をすりつけると、快感が腰から背中を這い上がる。 「ん……薫さん……硬いね」  さっき吐精したばかりだというのに、怜の言う通り、そこは今までにないほどガチガチに硬くなっている。満足の溜息を吐き、怜は腰をゆるゆると振る。  はぁ、はぁという薫の息が耳に心地いい。感じる場所に太い先端をこすりつけ、両手で体を支えて腰を浮かせては、根元までペニスを呑みこむ。 「きもち、いい?」 「ああ……すごい……」  呻くような返事に、体の奥から悦びが生まれる。薫さんが気持ちよくなってくれるの、すごく嬉しい。何度も何度も、感じるしこりに薫をこすりつけ、水音を聞きながら竿全体をしゃぶりつくす。  触れていない自分のペニスからは、体液が糸を引いて垂れ落ち、薫の腹を濡らしていた。  堪らず前かがみになり、先端を薫の腹に押し付ける。  息を弾ませながら、怜は腰を振り続けた。快感で頭がぼおっとなる。両手で体を支えられなくなっていく。  ふと、薫と目が合う。たまらなく愛おしそうな目に、怜は思わず引き寄せられた。胸をすり合わせ、体の奥で繋がったまま、2人は口づけを交わし、見つめ合って微笑む。 「薫さん、きもち、いいね」 「ああ……すごく、きもちいい」  柔らかく抱き締められると同時に、薫が動き始めた。下から突き上げられ、怜はのけぞって喘ぐ。 「んっ、あ、そこ、そこイイ」 「ここ?」 「あっ、あぁんっ、そこ、もっと、もっとぉ」  ずくずくと、えぐるように奥を突かれると、頭がおかしくなりそうだ。互いの肌に挟まれ、ペニスがこすり上げられる。 「んあぁ、あ、かおるさ、かおるさん」  きもちいい。それしか考えられない。薫のペニスに貫かれ、亀頭の膨らみを舐め回し、カリの段差に息を詰まらせる。気持ち良すぎて、腰を振るのが止められない。 「あああ、あ、あ、きもちい、あぁん、あふ」  深いところを突かれたときに、薫のペニスが膨れるのを感じた。熱が背骨を震わせる。 「あ、んっだめ、イっちゃ、イっちゃうよ、イ」 「あぁ怜、あ、あぁイきそう、だ」  薫が喉の奥から声を絞り出す。腰が激しく振り立てられ、次の一瞬、熱い熱い精液が怜の奥に叩きつけられる。 「んあ! あ、ああああ」  脳天まで快感が駆け上がる。絶頂で白く脳が灼ける。精液でナカを叩かれながら自分も射精し、怜は悶えた。薫の上でガクガクと痙攣し、夢中で彼の腕にしがみつく。  絶頂を味わう時間はしばらく続いた。  やがて怜は、息を切らしたまま薫の上に倒れこむ。頬の下で、自分と同じぐらい薫の心臓が激しく脈打っているのを感じとり、目をつぶって余韻に浸る。 「……薫さん、気持ちよかった?」 「ん……最高のセックスだった」  柔らかく髪を梳かれ、怜は顔を上げた。目の前に薫の胸がある。心臓の場所には、丸い傷痕があった。  オレと薫さんを繋ぐもの。渾身の力で撃ち込まれた、悲しみの痕跡に唇を当て、怜はじっと息をする。 「怜……愛してる」  静かな声に、怜は顔を上げた。優しく強い薫の目が、怜を見つめている。傷痕を、薫は自分の指でなぞった。  この傷こそが愛し合っている証しだと、薫は無言で怜を赦してくれる。 「オレ、ほんとに薫さんを愛してるんだなぁ」  自分の気持ちに改めて気づいたように、怜は言った。裸で肌を重ねるたびに、何度でも、その愛は事実だと思い出すだろうと考えながら。  薫さんの心臓は、オレのために脈打ち続けた。オレのそばにいるためだけに。 「今度さ……『穴』を一緒に見に行きたい」  怜はぽつりと言った。 「緑だったな」  怜の考えを見透かしたように、薫が答える。 「オレ……『穴』って真っ黒なんだと思ってた。あんなふうに、優しくて強い場所になってるなんて、思ってなかった。……薫さんみたい」 「俺?」 「うん。オレの中には黒い沼があって、そこには色々な傷とか、悲しい気持ちとかが溜まってる。ずっと、そこは黒かったはずなのに、気づいたら……沼は底が抜けて、どろどろしたものは全部どこかへ落っこちて。薫さんとの思い出とか、優しい気持ちとか、澄んだ色の水が新しく溜まって、薫さんがいて……」  頬を包み込まれ、視線を上げる。愛情深い表情から目が離せなくなる。 「最後まで、薫さんはオレのそばにいてくれた。そういえば、池袋に来てくれるの早かったけど、居場所がわかってたの?」 「正確な場所は、お前の信号待ちだったが……地下鉄に入った偵察部隊の報告を聞きながら路線を分析して、直観的にお前は池袋にいると思った。理由は、自分でもよくわからん。地下と高い所とが繋がっていて、現在も使用可能な施設はあそこか新宿ぐらいだから、地下鉄との関係で池袋だという結論を出しただけなのかもな。ただ……」  怜の目をのぞきこみ、薫は笑った。 「お前が連れ去られた瞬間から、俺はずっと体の奥で、お前との距離と方向とを感じ取れている気がしていた」  体を繋ぐ関係って、そういうことなのかもな。  言外の意味に気づいて、怜はくすりと笑う。 「カラダの相性って、心が作るのかな」 「かもな」  それ以上は何も言わず、2人は口づけを交わした。やがて口づけに呻き声が混ざり、激しい喘ぎに変わるまで、時間はそれほどかからなかった。

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