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ep.8

 生意気な紫陽花ことカメレオンは腕の中で別の色にまたも変身している。 「やだ、やめて、恥ずかしいからっ」  さっきからどこを触ってもどこを撫でてもそれの繰り返し──。  そして狭量な男は「他の奴は良くて俺はダメなの?」と子供のような駄々をこねる。  はたから見れば犬も食わないし、一生やってろと言われかねない、笑止千万、臍で茶が沸くレベルだ。 「違う、花瀬さんなら何してもいい……けど、わかんないっ、恥ずかしいんだもんっ」 「そういう言葉責めやめてくれないかな? チンコがもげそうになるから」 「もっ、イケメンが台無しだぁ〜」  紫葵は恥ずかしくて泣いているのか、残念な花瀬に嘆いているのか最早不明だったが、発情期(ラット)でもないのに花瀬は紫葵が欲しくてたまらなかった──。  早く抱いて他の奴らの匂いを消し去りたいし、紫葵がその全てを忘れるくらい自分に溺れさせてやりたい。 「紫葵、もうお願い──」  その言葉に紫葵はぎゅっと瞑っていた瞼を開いて小さく頷いた──。  口付けるだけで紫葵は小さく声を漏らす。深く中を味わうと甘い吐息が漏れて花瀬は背筋がぞわりとした。癖になって何度も責めると相手は危うく酸欠を起こしかけていた。 「ごめん、紫葵。大丈夫?」 「頭……がぁ、くらくらするぅ……」  頬をピンクに染めてすっかり紫葵は目を回している。 「ぷっ、可愛い」 「笑うなぁ〜」ポスンと力なく胸を叩かれてその手を取り上げ指先を絡める。手の甲に口付けるだけで紫葵は肩が揺れる。  唇を軽く掠めて首筋を味わい、ピンク色になった耳朶を齧ると紫葵は子供みたいに幼い声を出した。 「ああ、くそ……」と小さく唸る花瀬に紫葵は何かやらかしてしまったかと不安げな顔をする。 「なんで……俺以外と試したりしたの」 「ごめんなさい、だって……」  横暴なαの独占欲に紫葵は理不尽さを覚えるとどころか悲しくて泣いている。泣かせたかったわけじゃないのに花瀬は自身の嫉妬深さを止められない。 「お願い、俺だけの紫葵でいて。俺だけのΩでいて──俺だけの」 ──運命でいて……。 「あっ、痛ッ……」  紫葵の声を聞いて自分がその首筋を噛んでいることに初めて花瀬は気付いた。  紫葵は抵抗することなく顔を上気させてひどく感じるのかビクビクと肩を揺らしている。  誰かを愛することは美しいことだとばかり思っていたのに、花瀬の中にあるのはドロドロとした理性の利かない欲望ばかりだ──。 「ごめん……紫葵……。俺は──ちっとも優しい男なんかじゃない……」 「いい、よ……。優しくなくても、いい……」  抱きしめて覗き込んだ瞳は痛みで濡れていたけれど、優しく微笑んでいた。 「乱暴でもいい……花瀬さんが俺のことを運命だと思うなら……俺はそれだけで幸せ──それが何よりも嬉しいんだ……」  そんな紫葵の言葉に花瀬は改めて目を見張る。 ──そうか、誰かと番になるというのはその人と楽園へ向かうことがゴールじゃないんだ──。 ──その人と、どこまで堕ちていけるか、どんな傷さえも厭わずに茨の道を進めるか──自分をどれだけ相手に捧げられるか、血を流せるか── 「紫葵は……もう、とっくに知ってたんだな……」 「なぁに?」 「ううん……。好きだよ、紫葵──」 「嬉しい──、俺も。花瀬さん……」 ──君になら、俺のどんな全ても見せていいんだね……。  そして、花瀬は狂ったように真っ赤になった肌の紫葵の全てを開いては夢中でその奥を貪った。 「あっ、ああ……っ、花瀬さっ……あっ、やっそこ、だめっ、あっ!」  熱くて汗ばんだ手のひらを必死に花瀬の肩に回して紫葵は狭い場所を花瀬の雄で深くこじ開けられては形を覚えるようにそれを締め付け、畝らせる。 「紫、葵……、少しだけ、緩めて……」 「むりっむりぃ……あっ、花瀬さんの大きいからっ、むりっ」 「嗚呼、もう、君ってば……」  諦めたようにため息をついて花瀬は動きを止めて紫葵を正面から優しく抱きしめる。  紫葵はそばにある花瀬の肌が何よりも心地よいのか首筋に何度も吸い付いた。その仕草が可愛くて花瀬は思わず勝手に笑みが浮かぶ。  そんな可愛い仕草のΩのことなどお構いなしに、花瀬は紫葵の両膝を押し上げて、赤く濡れた秘部が丸見えになるくらい腰を持ち上げた。 「やだっ、やめっ」  紫葵の一番深いところまで花瀬は一気に穿ち、紫葵から声を失わせる。そのせいで紫葵の拒絶の言葉は最後まで言うことを禁じられた。  全身に電気が走るみたいな深く強い刺激に紫葵はほとんど音にならない声をあげていた。  ビクビクと繋がった場所が戦慄いて、紫葵が達したことを花瀬は察したが、それでも尚、激しく花瀬は紫葵を責め立てるのをやめない──。 「ダメっ、だめぇ……また、きちゃう、あ……っ、ああっ、イ……イッちゃ、う……だめっ……ああっ!」 「──っ」  花瀬は自分を強く飲み込む紫葵の奥深くに自身の精を全て注ぎ込んだ。 「……あ、お腹……あつ、ぃ……」  ズルリと身体の中から大きな塊が出て行って、紫葵は少しだけ安堵した。繋がっていた場所から花瀬に注がれたモノが脚へと伝うのがわかった。  涙でうるむ瞳を薄く開いたまま、紫葵は未だはっきりしない頭のままぼんやりとしている。花瀬に口付けられて、自身も口を開きその舌先を舐めとった。  力の入らない身体を起こされ、そのまま正面から花瀬の身体にしがみつきながら何度も夢中で深く互いの口の中を味わう。  小さな尻を乱暴に鷲掴みされて紫葵は高く声をあげた。さっきまで花瀬が入っていた場所を指で大きく開かれ紫葵は思わず腰を反らした。  あっという間にまた反り上がった花瀬の雄がそこへ入ってきて紫葵は息を詰めた。 「もう、ムリっ……入れちゃダメっ、だめ……っ抜いてっ」  花瀬の膝の上に座らされた状態でそこから紫葵が自力で逃げ出すことは不可能に近かった。  暴れれば暴れるほど自分の体重が花瀬をどんどん奥深く咥えてしまう。 「もっダメ……俺死んじゃう、死んじゃうからぁ……っ!」 「紫葵が死んだら俺も死ぬ──」 「もっ、そんな殺し文句今言うなぁっ」  身体中を自分の匂いで染めたΩに花瀬は恍惚の笑みを密かに浮かべた。 「もう誰にも渡さない──」  花瀬のなまめかしく蠱惑的な色香溢れるその笑みと甘い声に紫葵は脳味噌が溶けてしまいそうだった──。 「もう〜、俺のことこれ以上馬鹿にしないでよぉ〜」 「やだ、俺馬鹿にしてやる」  花瀬はケラケラと笑って真っ赤な顔をして嘆く紫葵を愛しそうに深く抱きしめた。

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