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第12話「マジか」*大翔
昨日。
あるクラブに行った。
そこで1人の女と知り合った。
クラブを抜けてホテルに行く事になって店の出口に向かった時、たまたま連れ添って出て行くカップルの後ろを歩く事になった。
――――……最初は男女のカップルだと思った。
けれど。階段を上っていく時に何気なく見えた横顔が、雪谷先輩に似ていたような、気がした。
その2人は明らかに、オレ達と同じ方向、ホテル街へと進む。2人が目の前で入ったホテルに、オレも入った。先に選んだ部屋の隣を取り、女に変に思われない程度に急いで追いかけた。その2人は、ドアの前にいた。
……ただ、確認したかっただけだった。
オレの外面の嘘っぽさを見破った人が、男なんかとホテルに行くなんて思いたくなかった。こんなとこまでついてきて、少し自分でも意味不明だったが、確かめずにはいられなかった。
雪谷先輩じゃない、違う奴だと、確認しに行ったつもりだった。
なのに。
こっちを見た、「ユキくん」と呼ばれたそいつは――――……
……雪谷先輩だった。
目が合ってしまったし。
……なにしてくれてんの、この人。
そう思いながら。
オレは、動揺を隠しながら、にっこり、笑って見せてみた。
男と、部屋入ってったとか。
信じられない、
部屋に入って、女に先にシャワーを浴びに行かせて、ソファに腰かけた。
……は――――……ウケる。
なにあの人。……ゲイなの?
楽しくもないのになぜだか、クッと、笑いが漏れた。
さっきの、雪谷先輩の、終わった、というような表情。
オレが、本性隠してるような奴だと思ってるから、きっと、ゼミの人たちにばらすとでも、思ってるんだろうな。
んなことしない。……絶対、ばらさねーよ。
ばらさねーで、いつもみたいに良い人を気取って。
これを機に、あんたの中のオレも、「王子」に昇格させてやる。
そしたら、このゼミ、格段に居心地が良くなるはず。
……どうやって、良い感じに持って行こうかな……。
「――――……」
にしても、男と、か。
……なに、あの人、今、この隣で、さっきの男とセックスしてんの?
相手、背、デカかったし。
――――……入れる方じゃなさそうだよな。
てことは、入れられてんの?
……マジか――――……。
なんか――――…… これまでにないくらい、胸糞悪い気がするけど。
身近な人がゲイなのも、それがホテルに入ってくとこを目撃して、いままさに、ヤってるんだろうなと思ってしまう事も、初だから、なんだうろか。
隣であの人が、抱かれてるのかと思うと――――……何だか妙にムカつくのとともに、変に興奮する、とか。なんか変態じみてる気がする。
なんでだか、変に高揚して、その後ずいぶん盛り上がってしまった。
相性が最高だったと勘違いしたらしい女からは、連絡先をしつこく求められた。一応交換をしたけれど、別れてからはすぐにブロックした。
自分のマンションに帰って、シャワーを浴びてから、ソファに座ってスマホを開いた。ゼミのグループトーク画面に、雪谷奏斗の名前がある。
多分今頃――――…… オレに見られた事で、悩んでるんだろうな。
ばらすつもりはないと、言ってやろうか……。
――――……いやでも。一晩位は狼狽えさせて。
明日ホッとさせてやれば、いいか。
……人をこんなに嫌な気持ちにさせてんだし。
少し位、悩ませてやりたい気がする。
にしても、騙されたな。
結構、女と居るとこ見たし、モテるって評判だったのに。
女好きなのかと、思ってた。
ゲイとか――――…… 信じられない。
さっきの奴、恋人、なのかな。
昨夜は悶々としたまま時が過ぎて。
なぜかオレが、変にドキドキしながら、学校に来た。
もう5限、始まるギリギリだけど、まだ先輩は入ってこない。
あの人って――――……オレと話す気。あんのかな。
まさか、無かった事にしてスルーする気じゃないよな?
もしかして、今日のゼミは休むつもりかと思った瞬間。
ドアがそーっと開いて、おそるおそる雪谷先輩が覗いてきた時は、なんだか一瞬、来た事を喜ぶ自分が居て。――――……少し意味が分からない。
他の人から見ても怪しすぎる動きをしていた雪谷先輩は、案の定、他の先輩や先生に笑われながらツッコまれている。
……何してんの、あの人。
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