12 / 544
第13話「予想外」*大翔
この人は、あんまりオレを好きじゃないと思う。
――――……多分、本性の見えない近寄らない方がいい奴、とでも思ってるんだろう。
むしろ、寄ってくる奴らばかりだったから。
そんな態度を取られる事って、認識している限り、初めて。
新鮮、っつーのはあるんだけど。
まあでも、オレからしても、手探りでしか話せない、面倒な相手でもある。
昨日から気になってた事を聞いてみた。
バイじゃなくて、ゲイ。
女の子は可愛いから好きだけど、興味がわかない。
恋人じゃなくて、クラブで知り合った遊び相手。
――――……なんか、聞けば聞くほど、想定外すぎる。
女の子も好きそうだからバイかと思った。
恋人以外とそんな事をするようなタイプとは、思わなかった。
しかも、クラブで知り合ったって――――……初見で、店出てすぐホテルって。
昨日オレもやってた事だけど……オレの相手は女だし。
この人の場合、体を開く相手だろ。
それを初見の相手と、って――――……全然、そんなタイプには見えない。
何なんだ、この人。
しばらく、自分が何を言いたいのか、迷う。
視線を感じて、ふと、先輩を見つめると。
また緊張してるのか、唇を少しだけ、かんだ。
……そうだよな。
身近な人間には誰にも言ってないって言ってた。
てことは、オレがばらしたら大変な事になるんだろうし。
信用できないオレの次の言葉が、そりゃ、相当気になるに違いない。
「――――……隠すの、辛くないですか?」
「え?」
「オレ、なんでも話、聞きますよ?」
そう、言ってみた。
優しい、相談相手。
そんなのに、なってやってもいい。
きっと、ゲイでいる事で、それを誰にも言えず、心細い中で生きてるに違いない。
聞いてやってもいいかな、話位。
きっとこの言葉を言えば。
頼りたくなった時に、オレを思い出すに違いない。
「誰かに話したい時とか。 オレに言ってくれたら、嬉しいですけど」
「オレに言えよ」じゃない。
「オレに言ってくれたら、オレが嬉しい」と伝える。
先輩を上に立てて、オレが、話してもらいたいというスタンス。
それをうまく、伝えたつもりだった。
時と場合にはよるけれど、悩みを聞く時は、こんな風に言って少し微笑んでやれば、割といちころ。何でも話しに来る奴が、多かった。
でも。
「あのさ、四ノ宮……?」
先輩がものすごく戸惑いながら、オレを見る。
……なんか、先輩の視線が、オレが予想していたものではない。
ありがとう、とか、話聞いてほしい、とかじゃないのは分かる。
怪訝そうな、戸惑いの表情。
「……お前、本気でそれ、言ってる?」
「――――……は?」
そう言われて、思わず眉を顰めてしまう。
「本気でしゃべってる?って、聞いてるんだけど……」
「――――……どーいう事ですか?」
心の中で警鐘が鳴る。
――――……前に立ち聞きした時の、嫌な感覚。
自分の顔から、張り付けていた笑いが、剥がれ落ちていく気がした。
「ほんとはさ、違うこと、思ってない?」
そう聞かれて、その意味を聞いたら。
躊躇った後に、間違ってたら、ごめんな、とか言いながら。
「……ゲイなんだから辛いことなんかいっぱいあるだろうけど、まあ自業自得だし、オレ良い人って事になってるし、少しは、話位聞いてやろうかなあ。みたいな……? ……分かんないけど。なんか、そんな感じ……? 良い人って、思わせたいんだろうなあとか………そんな気がする」
思わず、否定する事も忘れて、長い事、その顔を見つめてしまった。
早く否定しなければ、それは、本当になりそうな事で。
違う、と言わなければいけないと思うのに。
――――……否定する気が起きない。
ともすれば、大声で笑ってしまいたいような気分。
一体、何なんだよ、この人。
見つめ続けていると、先輩は、突然、失言だったと思ったらしくて、今更謝ってきた。
「……ごめん、失礼か。……失礼だよなオレ。悪い」
最初にそう言ってきて。
返事をしないオレに、更に追加で謝る。
「……ごめん、今の、言い過ぎた」
じっと、その真意を探ろうと、見つめ続ける。
――――……多分、本気で謝ってはない。
今も、きっと、オレがそういう奴だと思ってるんだろうな……。
でも、人として、これは言っちゃいけないとでも思ったのか、
すごく、困ったように見つめてくる瞳。
自然と、ため息をついていた。
垂れてた前髪を掻きあげて。
同時に、思わず呟く。
「……ほんと先輩てさ」
「――――……?」
「……なんか予想外っていうか………」
言ったきり、もう、何か、苦笑いしか浮かんでこない。
ともだちにシェアしよう!