12 / 542

第13話「予想外」*大翔

 この人は、あんまりオレを好きじゃないと思う。  ――――……多分、本性の見えない近寄らない方がいい奴、とでも思ってるんだろう。  むしろ、寄ってくる奴らばかりだったから。  そんな態度を取られる事って、認識している限り、初めて。  新鮮、っつーのはあるんだけど。  まあでも、オレからしても、手探りでしか話せない、面倒な相手でもある。  昨日から気になってた事を聞いてみた。  バイじゃなくて、ゲイ。  女の子は可愛いから好きだけど、興味がわかない。  恋人じゃなくて、クラブで知り合った遊び相手。  ――――……なんか、聞けば聞くほど、想定外すぎる。  女の子も好きそうだからバイかと思った。  恋人以外とそんな事をするようなタイプとは、思わなかった。  しかも、クラブで知り合ったって――――……初見で、店出てすぐホテルって。  昨日オレもやってた事だけど……オレの相手は女だし。  この人の場合、体を開く相手だろ。  それを初見の相手と、って――――……全然、そんなタイプには見えない。  何なんだ、この人。  しばらく、自分が何を言いたいのか、迷う。  視線を感じて、ふと、先輩を見つめると。  また緊張してるのか、唇を少しだけ、かんだ。  ……そうだよな。  身近な人間には誰にも言ってないって言ってた。  てことは、オレがばらしたら大変な事になるんだろうし。  信用できないオレの次の言葉が、そりゃ、相当気になるに違いない。 「――――……隠すの、辛くないですか?」 「え?」 「オレ、なんでも話、聞きますよ?」  そう、言ってみた。  優しい、相談相手。  そんなのに、なってやってもいい。  きっと、ゲイでいる事で、それを誰にも言えず、心細い中で生きてるに違いない。  聞いてやってもいいかな、話位。  きっとこの言葉を言えば。  頼りたくなった時に、オレを思い出すに違いない。 「誰かに話したい時とか。 オレに言ってくれたら、嬉しいですけど」  「オレに言えよ」じゃない。  「オレに言ってくれたら、オレが嬉しい」と伝える。  先輩を上に立てて、オレが、話してもらいたいというスタンス。  それをうまく、伝えたつもりだった。  時と場合にはよるけれど、悩みを聞く時は、こんな風に言って少し微笑んでやれば、割といちころ。何でも話しに来る奴が、多かった。  でも。 「あのさ、四ノ宮……?」  先輩がものすごく戸惑いながら、オレを見る。  ……なんか、先輩の視線が、オレが予想していたものではない。  ありがとう、とか、話聞いてほしい、とかじゃないのは分かる。  怪訝そうな、戸惑いの表情。 「……お前、本気でそれ、言ってる?」 「――――……は?」  そう言われて、思わず眉を顰めてしまう。 「本気でしゃべってる?って、聞いてるんだけど……」 「――――……どーいう事ですか?」  心の中で警鐘が鳴る。  ――――……前に立ち聞きした時の、嫌な感覚。  自分の顔から、張り付けていた笑いが、剥がれ落ちていく気がした。 「ほんとはさ、違うこと、思ってない?」  そう聞かれて、その意味を聞いたら。  躊躇った後に、間違ってたら、ごめんな、とか言いながら。 「……ゲイなんだから辛いことなんかいっぱいあるだろうけど、まあ自業自得だし、オレ良い人って事になってるし、少しは、話位聞いてやろうかなあ。みたいな……? ……分かんないけど。なんか、そんな感じ……? 良い人って、思わせたいんだろうなあとか………そんな気がする」  思わず、否定する事も忘れて、長い事、その顔を見つめてしまった。  早く否定しなければ、それは、本当になりそうな事で。  違う、と言わなければいけないと思うのに。  ――――……否定する気が起きない。  ともすれば、大声で笑ってしまいたいような気分。    一体、何なんだよ、この人。  見つめ続けていると、先輩は、突然、失言だったと思ったらしくて、今更謝ってきた。 「……ごめん、失礼か。……失礼だよなオレ。悪い」  最初にそう言ってきて。  返事をしないオレに、更に追加で謝る。 「……ごめん、今の、言い過ぎた」  じっと、その真意を探ろうと、見つめ続ける。  ――――……多分、本気で謝ってはない。  今も、きっと、オレがそういう奴だと思ってるんだろうな……。  でも、人として、これは言っちゃいけないとでも思ったのか、  すごく、困ったように見つめてくる瞳。  自然と、ため息をついていた。  垂れてた前髪を掻きあげて。  同時に、思わず呟く。 「……ほんと先輩てさ」 「――――……?」 「……なんか予想外っていうか………」  言ったきり、もう、何か、苦笑いしか浮かんでこない。

ともだちにシェアしよう!