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第15話「秘密協定」

「――――……協定、結びませんか」  考えた末に漏れたオレのセリフに、雪谷先輩は、え?と首を傾げた。 「オレと、先輩だけの間で」 「……協定って? どういうこと?」 「先輩の秘密、守ります」 「……うん」 「……だから、オレの秘密も守ってもらえますか」 「……四ノ宮の秘密って、何?」 「――――……守りますか?」 「……うん。 守る。お前も守ってくれるんだろ?」  オレはまっすぐ、先輩を見つめて、頷いた。 「――――……何、秘密って」 「……先輩が、表と裏が違うんじゃないかって言ってるの」 「……ん」 「合ってる、と思います」 「――――……」  え、という顔をして、オレをじっと見つめてくる。 「オレ正直、もう結構長い事適度にうまくいくようにやるのに慣れてるんで、自分でも、どこからどこまでが表なのかもよく分かんないんですけど」 「――――……」 「……とりあえず、さっきあんたがオレに、こう思ってんじゃないのって言った事は――――……結構あってるし」 「…………」 「オレの事知らないくせにって、言ったのは――――……完全に、いつもなら隠してるオレの気持ちだし」 「――――……あー……うん」  先輩は少しの間オレから視線を逸らした。  それから、まっすぐにオレを見た。 「なんか、四ノ宮、複雑だな……?」 「――――……自分でもそう思ってます」 「そう、なんだ……」 「――――……だから、マジで絡むと大変だと思いますけど」  自分でも何が言いたいんだか、よく、分からない。  隠すことなく、絡みたいのか。  やっぱりそんなの面倒だから、今まで通り行きたいのか。 「……よく、分かんないんだけど」    先輩は、んーー、と声を出して。  それから少しして。 あ、と言ってオレを見て。  ふわ、と、笑った。   「……じゃあもしかして、オレにはほんとのこと、言ってくれるって事?」 「――――……」 「オレにだけ言ってくれるって事?」  返事をできないでいると、先輩はまた、ふ、と笑って、オレをまっすぐに見つめた。 「――――……なんかオレお前、うさんくさくて、嫌だったんだけど……」 「……は?」 「……なんか、今、大丈夫になったかも」  ふふ、と笑う。  ――――……なんか。  よく、分からない、感覚が、胸に渦巻いてる気がする。 「……じゃあ、四ノ宮はオレにだけ本音いうって事で。 オレも、お前にだけはあの件、隠さない。なんか相談があったら、話していい?」 「――――……」 「協定ってそういう事で、良いの?」  何かが、渦巻きまくってて、返事が出来ない。  そもそもオレ、かなり前から誰にも言わないできたこと、この人に言えるのか? ……あー。わかんねえなあ……。 「……ほんとオレ、良い人期間長いんで……全然どうなるか分かんないんですけど」 「んー……?」 「……突然吹っ切って先輩に裏全開で行ったらどうしますか」  普通、嫌だよな。  そこでまた、らしくないとか、これはひどいとか、言われんのもな。  ……めんどくせえしな……。  先輩は、ちょっと眉を寄せてオレを見て、また首を傾げた。 「すっごい心配性なのか? 四ノ宮」 「――――……んな事初めて言われましたけど」 「……それも隠してるからじゃないの? ……オレ多分、お前がどんな感じかはちょっとは分かってる気がする。うさんくさいお前は怖かったけど。本音なら、全然いいよ。どんだけ裏がすごいのか、ちょっと楽しみ」  あははー、と笑う。  ……そうだ。この人、こんな感じの人だった。  明るくて、おおらかで、いつもにこにこ笑顔を絶やさない。  だから――――……ゲイ、とか。  そんなのを暗く隠してるイメージが、無くて。  意味が分からなくなった。   「……後悔しないでくださいよ」 「え?」 「ずっとひっこめてきたの――――……あんたが、引き出すんだから」 「――――……」  しばし、きょとん、として。  それから、ぷ、と先輩は笑顔になった。 「だから楽しみって、言ってるじゃん」  クスクス笑って、先輩は、右手を差し出してきた。 「秘密、お互い、絶対守る。 良い?」  まっすぐに見つめ合ったまま、オレは手を出して、先輩の手を握った。 「よろしく、先輩」 「うん」  先輩のゲイ発覚で衝撃だった、翌日。  そんな風に。  ――――……変な秘密協定を、雪谷先輩と、結んだ。

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