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第16話「やめていい?」*奏斗
【side*奏斗】
協定――――……。
変なの、四ノ宮。
そう思いながらも、くす、と笑ってしまう。
「……四ノ宮、ご飯、行く?」
「――――……」
うさんくさいのが外れて、怖くはなくなったし。
お腹空いたし。ご飯食べながらゆっくり話そうかなと思って聞いたら、しばし沈黙。
「あ、行きたくない?」
「いえ。……行きましょうか」
「うん。行こ」
と言う事で。今。目の前に四ノ宮が居る。
駅前にある、ハンバーグのお店。
結構高い衝立があって、ほぼ個室みたいだし、音楽も結構大きい。だからこの店を店を選んだ。
「昨日――――……びっくりしたよな、 ごめんな」
何となくそれは言っておこうと思って、座って、注文を済ませてから言った。すると、四ノ宮は、ふ、と苦笑い。
「まあ、驚きましたけど」
「あそこ、良く行くの?」
「……いえ。初めてでした」
「そうなんだ。すごい偶然だよなーあんな部屋の前で知ってる誰かと会うとか、初めて」
「……ですね」
少し長い沈黙の後、四ノ宮が一言だけ頷く。
「……ていうか、まあ四ノ宮より、オレのビックリの方が絶対凄かったと思うけど」
あはは、と笑いながらそう言うと、四ノ宮は首を振った。
「先輩のはヤバいって焦っただけでしょ? ……こっちは死ぬほどびっくりしましたからね」
「……まあそうかもね」
――――……そう答えてから、目の前の四ノ宮の顔をマジマジと見つめてしまう。
「今の、すっごい素な感じだなー……素だとちょっと口悪い?」
くす、と笑って聞いてみると。
「あー。悪いかも――――……乱暴な言葉遣い、らしくないってよく女子に言われてたから」
「――――……らしくない、か。そうかなぁ? なんか、オレにはすっごくしっくりくるんだけど」
「……あんたの目から見たら、オレってどんな奴なんですか?」
「見た目は王子って言葉似合うけど。……んー、中身は得体が知れない奴、だったかなあ」
言いながら、苦笑いで「ごめんな」と言っておく。
「ふうん――――……見た目は王子って思う?」
「まあ、そこは、否定はしないけど」
笑いながら頷くと、四ノ宮は、ふー、と息を付いてオレを見つめてくる。
「オレは、見た目は王子じゃない方が良かったんですけどね」
「うわ。なんかすごい贅沢って言われそうだけど?? お前のルックスになりたい奴、めちゃくちゃ居るだろうと思うけどなー」
「……譲れるなら譲るけど」
そんな風に言って、視線を落とす四ノ宮。
憂いを帯びる、なんて形容詞がぱっと浮かんでしまうような、恵まれたルックスしてるのに。
ほんと贅沢だなと、思うのだけれど。
――――……本音言うのが面倒になるほど、外見で期待されてきたのかなーと思うと、少し不憫にも思ってしまう。
「まあ、その顔じゃなきゃ分かんない事も色々あるんだろうけど。でもさ」
「――――……」
「……表と融合できていければいーんじゃない? そしたら、その見た目は絶対お得だと思うけどなあ」
四ノ宮はじっとオレを見ていて、ぷ、と苦笑い。
「お得っておかしくないですか?」
「そう?」
「お得って言われたのは初めてかも」
「――――……」
確かに、お得って言葉は変だったかな。
「じゃあ、先輩のその見た目は? お得ですか?」
「……んーまあ。モテるし。得、なんじゃない? モテて悪い事ってそんな無いし」
「それって、男にってこと?」
「――――……うん。オレ、女の子にモテても、無理だから」
そう言うと、四ノ宮はふーん、と少し黙った。
「恋人は、居ないんですか?」
「うん」
「……作らない?」
「うん」
「ふーん……」
それきり2人で何となく黙っていた所に、食事が運ばれてきた。
「話、後にしよ。いただきまーす」
手を合わせて、食べ始める。
2人とも無言。 美味しいし、別に気まずくないからいいやと思いながら、 目の前の四ノ宮を少し盗み見る。
――――……うさんくさくて、怖かったけど。
……なんか、色々トラウマありそう……。
それのせいで、こんな感じだったのかと思うと。
いっぱい話、聞いてあげたくなってしまう。
ダメなんだよなー、オレ。
弟がいるから、ちょっと可愛く思っちゃうと、構っちゃう。
世話したくなっちゃうし。
…………でも、ちょっと、とりあえず、あれだな。
弟とは違うんだし、まだどんな闇があるかも分かんないし、適度にしとこう。
「先輩」
「……ん?」
「――――……ちなみにオレ、完全にノーマルですけど」
「……ん?」
「変な目で見ないでくださいね?」
くす、と笑って、そんな風に言う、四ノ宮。
「――――……」
色んな事が頭に浮かんでは消えて、また浮かんでは消えて。
咄嗟に、答えられない。
「ん? もしかして、変な目で、見てますか?」
ニヤ、と笑われて。
「……っちがうっつの!!!」
なんかよく分からないけど、恥ずかしくなって、かあっと赤くなったまま、小声で叫ぶ。一応、ここは店という理性だけは働いてる自分を褒めてあげたい。
「……っ見てねーから! つか、オレ、うさんくさいと思ってた奴に惚れる趣味ねーから!!」
そう言うと、ぷ、と笑う四ノ宮。
「じゃあ良いんですけど」
前言撤回だ。
可愛くない。
オレの弟は可愛いけど、こいつは可愛くない。
「……さっきの協定、やめていい?」
「は? ――――……明日、ばらすけど良いです?」
ぐ。
ほんの数秒葛藤した後。
「……いや。ごめん。……引き続きお願いします」
「ん、いいですよ」
……偉そう。
でもって、なんか、楽しそうに笑ってる。
……くっっ。
やっぱり、全然いい奴じゃねーぞ。どこが王子だ?
皆なんであんなに騙されるんだろう。
先行き、なんか、心配だけど。
でもまあ。
――――……うさんくさいよりは、よっぽど、イイか。
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