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第18話「恋人は」*大翔

 食事を終えて、オレはどうしても気になっていたことを、聞いてみることにした。 「先輩って、いつからゲイだって気付いたの?」 「……聞きたい? それ」 「聞きたいから聞いてますけど」  そう言うと、ふ、と息をついて。空いた皿を避けて、テーブルに肘をついて、少し前に乗り出してくる。 「ちゃんと自覚したのは、中学」 「ふうん。……ゲイって、楽しいですか?」  何となくそう聞いてみたら。  先輩はじっとオレを見つめて、逆に聞いてきた。 「……それ言うなら、女の子、好きで、楽しい?」 「別に楽しい訳じゃないけど……」 「こっちもそういうことだと思うけど。 別に楽しいから好きなわけじゃなくない?」 「そう、ですね…… じゃあ、男とすんのって良いですか?」  そう聞いたら、すごく嫌そうな顔をして。  それから、ため息とともに言った。 「オレ女とできないから、比べられないけど……でもバイの奴らに、今までで一番良いって言われたから、オレは良い方なんじゃないかなあ。まあ確かめようもないけど」 「――――……恋人は作らないんですか?」  そう聞いたら、意外な答えが返ってきた。 「うん。作んない。一回限りの関係しか持たないから」 「……一回? 何で? 何、一回って」 「付き合うとか要らなくて。その時だけよければいいし」 「――――……」 「お前が一緒に来てた子は? 彼女?」 「――――……昨日引っ掛けた子」 「何だよ、オレと同じじゃん」  ふ、と笑う先輩。  いや、だから――――…… 違うだろ。  組み敷かれるのに、一回限りとか。危ないんじゃねえの。 「……変なアブナイ奴に会ったこととか、ねえの?」 「――――……え、何? 心配してんの??」  先輩は、きょとん、として、オレを見つめる。 「いや、ちげーけど。 オレは女だからいーけど、あんた男相手じゃ、危ない目とかにあわねえのかなって」 「……やっぱり心配してくれてるよね?」  ぷぷ、と楽し気に笑う先輩。  笑い事じゃねーけど。 「でも、そんなに怖い目にも遭ったことないし。いつも同じ店で、なんとなく知り合いが居る奴としかしてないし。執着されるのも怖いし嫌だから、一回だけってことに最初からしてるし――――……モテそうな奴としかしないから、割り切ってる奴ばかりだし……大丈夫」  そこまで言って、先輩は口を閉ざした。 「……オレちょっと喋りすぎ。 大体分かっただろ??」  まあ。分かった。  ――――……分かんねーのは。  ……なんかすっげー、モヤモヤする、自分の心の中。  この人が、そんなよく知りもしない奴に、抱かれて泣かされてんのかと思うと。「腹が立つ」……というのが、一番、正しい表現かな。  だからと言って、オレが相手してやるから、他の奴とすんなとか。  ……そんなことを思う訳ではないけど。  ……つか、オレ、どノーマルだし。  男、無理。  よくこの人、男なんかと、できるなあ……。 「……先輩って、恋人居たことは、無いの?」 「――――……」  それなら、良いと思う。  聞いた瞬間、いきなり空気が固まった。  あ……。地雷か。これ。 「――――……居たことも……あったけど。もう二度と、要らない、かな」 「……そーですか」  しばし、無言の時が流れる。  

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