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第20話「嘘だろ?」*大翔

 もう目の前の角を曲がれば、自宅マンション――――……と、そこで。  前方に、雪谷先輩を発見してしまった。  隣に居るのは、背の高い男。  ――――……先輩、もしかしてご近所とか?  まあ、大学から歩いて通えるマンションを選べば、ここら辺、マンションやアパートが多いし、まあご近所さんも、無くはないだろうけど。  隣の男と、距離、近。  ……恋人じゃねえんだよな……?  はー。何で、昨日と言い、今日と言い、後からついてくみたいな真似……  いや、今日はただ、方向が一緒なだけだけど。  角を曲がって、自分のマンションが見えた。  先輩はどっちに行ったんだろう、と思って、見回したけど、もう居なくて。  どっか入ったのか。  もうほんと近いご近所さんだったんだな。  まあ、マンションなんか、隣の奴にも会わねーし。引っ越してから両隣、何度か訪ねたけど全然出てこず、結局挨拶すら叶わず終わったっけ。  隣すら会わないのだから、どんな近所だとしても、ここ数カ月会った事ねえし関係ないか。  にしても、昨日のラブホもな……。新しい施設なら、鉢合わせとかしないから会えなかっただろうし。先輩と、変な縁は、あるのかもな……。  マンションのエントランスに入り、エレベーターに乗る。自分の階で、降りて先を見ると。――――……珍しい。オレんちの隣のドアの前に、2人立ってる。会うの初めてなんじゃねえか。  ……挨拶出来てねえけど。まあ、いっか……。  挨拶すべきかは……目があったら挨拶するか。そんな風に思いながら近づくと。  その会話が、聞こえてくる。 「ほんとよく鍵無くすよな」 「無くしてないって、鈴の音してるし」 「貸せよ、鞄。 オレが探すから」 「あ……もー」  鞄を奪われた男がふっと気づいてこっちに顔を上げて。  ……声。似てるなとは、思ったけど。  ――――……まさかなと、思った、のに。 「しの――――……みや??」  ていうか。  なにこれ。 「……先輩、何でここに、いんの」 「…… オレんち、ここ」 「はあ?」  何言ってンの、この人。嘘だろ。 「……四ノ宮は、なんで……」 「……こっち、オレんち……」 「は? 嘘だろ?」 「嘘じゃねえし」 「……ごめん、なんか、ちょっと受けとめきれない……」 「こっちのセリフ……」  数秒無言。 「え、四ノ宮、いつから住んでるの?」 「入学式のちょっと前から」 「……挨拶とか来た?」 「何回か行ったけど、全然つかまらねえから諦めた」 「……ああ、なるほど……」  それきりまた黙る。 「カナ、鍵あった」  黙ってた男が、そう言って、顔を上げて、オレを見た。  ――――……結構、イケメン。結構つーか、かなり、イケメン。  昨日の奴もイケメンぽい雰囲気だったし、面食いだな、この人。  つか、なんだかため息、つきたい気分。 「カナ、オレ先入るよ」 「あ、うん」  その男は、ぺこ、とオレに頭を下げると、鍵を開けて、中に入っていった。 「……とにかく……お隣さん、てこと……なんだよな?」 「――――……そう、みたいですね……」  2人で、しばし、無言。  何だか何も言葉が浮かばない。 「……1回も、会った事ないよな……」 「見かけた事すらないですね」 「――――……とりあえず…… また今度話そうか」 「そうですね」 「……おやすみ、四ノ宮」  そう言って、先輩がドアの中に消えていった。  オレも鍵を開けて、自分の部屋に入る。  鍵を置いて――――…… ため息。  事実は小説よりも奇なり。  ――――……どころの話じゃねえな。    何なんだよ、昨日から。 「……シャワー浴びよ」  もう考えんの疲れた。  ――――…… そんな風に思いながら、熱いお湯を浴びて、すっきりしてバスルームを出る。  先輩側の壁が、目の前にある。  ……あの人、今、向こうに居んだよな。  カナ、とか。呼んでたな。  ――――……今夜、そこであいつと、寝んのか?      ち、と知らず舌打ちが漏れて。  ――――……オレはスマホを手に取った。 『はい。大翔さん? どうしました?』 「葛城――――……明日じゃなく、今日迎えに来てくれるか?」 『私は構いませんが。良いんですか? 2日泊まる事になりますが』 「……良い」 『分かりました。1時間以内に行きますので』  頷くと同時に電話が切れた。      隣で、とか。考えながら過ごすとか、絶対ぇ無理。  ため息を付きながら、オレは立ち上がって、実家に帰る支度を始めた。    

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