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第21話「葛城」*大翔
「こんばんは、大翔さん」
「あーなんか、久しぶり、葛城」
「そうですね。元気でしたか?」
「まあ。そこそこな」
言いながら、車の後部座席に乗り込む。
|葛城 恭一《かつらぎ きょういち》。
実家、四ノ宮の屋敷にいた時、オレの世話をしていて、今でも何かある時に色々頼むのは、両親ではなくて、葛城。
そもそも父親も母親も、子育てというものをしない。
一緒に食事を取ったり、話したりはするけれど、世話は全部他人任せ。
もともと金持ちのお坊ちゃんとお嬢様。
そういうものだと思ってるらしい。
小さい頃は、プロのシッターがオレの世話をしていたらしいし、色んな事を教えてくれたのは家庭教師やその道のプロの先生達。
まあ――――……悪くも無かったけど。
父親は仕事をしているから、そこそこ世間も知ってるのだろうが、母親は……息子が言うのもなんだが、完全に世間知らず。頭、花畑な気がする。親父の付き添いで出るパーティが楽しくてしょうがないらしいし。あれを楽しめるって、相当だ。……まあ、優しくて穏やかで嫌いではないが、特別そこまでの繫がりも感じない。姉とは小さい頃はいつも一緒だったが、高校生くらいからはバラバラ。まあ異性の姉弟なんてそんなもんだと思う。
父母に比べれば、葛城の方がよっぽど家族みたいな存在だ。
兄みたいでもあるし、父親みたいでもある。
普段は屋敷の事を取り仕切っていて、葛城の指示で屋敷は回っている。
葛城の父親が、もともとその業務と、オレの父親の執事みたいな役目だった。今も健在だけれど、徐々に葛城に譲りながら、今も屋敷には暮らしている。
まだ確か30代半ば位だったような。若いけど落ち着いていて、色々取り仕切るのが得意なのは父親を見ていたせいか、もともとなのか。
オレが唯一、相談したり頼るのは、葛城くらい。
「どうですか、大学は。慣れましたか?」
「ああ、まあ。慣れた」
「お友達は? 恋人とかできました?」
「――――……まあうまくはやってるけど」
言うと、葛城は「うまくやってる、ですか……」と苦笑い。
「うまくやってる」の本当の意味が分かるのは、この世で葛城しか居ない。と思う。――――……もしかしたら、今日から、雪谷先輩も、かもだけど。
「――――……そう簡単に、うまくやらなくはなんねーし」
「まあ。そう、ですね」
運転しながら、葛城は苦笑い。
「葛城」
「はい」
「――――……1人、バレた」
そう言うと、葛城、しばらく無言。
「……バレたっていうのは?」
「――――……なんかその人、オレの事、疑っててさ」
車の外を流れていく夜景を、ぼんやりと目に映しながら。
なんとなく、あの時の顔を思い起こす。
「本気でしゃべってる?とか、聞いてきて」
「――――……」
「……前から、裏がありそうとか言ってるのもたまたま聞いたりしてて。だから、もう、ばらした」
「いつですか?」
「今日の夕方」
「ついさっきですか。――――……それで、私に会いたくなりました?」
クスクス笑われて、「ちげーし」とそこは否定。
――――……隣の部屋でヤってんのかと思ったら、あそこに居たくなかっただけだし。
「……ゲイって、知り合いに居る?」
そう聞いたら、葛城は一瞬間を置いて、ぷ、と笑った。
「今度は、どうしました?」
「――――……そのさ、バレた人がさ。ゲイなんだ」
「ああ。そうなんですね……」
「……ゲイだっていう秘密と、オレの良い人装ってる秘密を、お互い守るっつー協定を結んだ」
「――――……大翔さん……」
クスクス笑って、葛城が赤信号を良い事に、振り返ってオレに視線を向けてくる。
「別にあなたの外面がいいのは、秘密にするほどじゃないですけどね」
「オレがどんだけ隠してるかまではしらねーだろ」
「まあそうですけど……そんなに皆、本当の事ばかり話して生きてないと思いますけどね」
「――――……それはそうだろーけど」
でも、そこそこ分かりやすい奴とかは 正直に生きてると思う。
オレ、顔にすら出さないからな。思ってる事。
何なら、嫌なはずの「王子」の仮面を、結果的にものすごく守ってるって、どーなってんだ。
「――――……あなたが本音で話せるかもしれない人の名前は?」
「名前なんか聞きたいか?」
「ええ、覚えておきますよ」
「……雪谷奏斗。いっこ上」
「学校の人ですか?」
「そう。ゼミの先輩」
「――――……ゲイ、ですか」
「そう。……しかも恋人は作んないで、皆一回だけの関係なんだってさ」
「――――……大翔さんって、その気ありますっけ?」
「ねーよ」
即答すると、ですよね、と笑う。
「でも、一回だけとか、その気持ちは分かるんじゃないですか?」
苦笑いとともに言われる。オレは大学入るまで屋敷にいたし、あれやこれやと話してたのは葛城なので、オレの事、一番よく知ってる。
「でもあの人は、やられる方だからさ。危なくねえ?」
「……心配なんですね」
クスクス笑われて、口を噤む。
……さっき先輩にもそう言われたっけ。
これ、心配してるってことになんの……?
ほんと、やめとけって思うけど。
――――……今日のあいつは、親しそうだったし。
……まあ危なくはねえのかな。
にしても。
――――……相手を見るとか、やっぱ無いな。
妙に想像しかけて――――……
イラっとする。
「今日はどうしたんですか?」
「え?」
「明日だけでも、屋敷に泊るの面倒って言ってましたよね?」
「――――……ああ。別に。朝移動、面倒だっただけ」
明日は、ひいじいさんの十三回忌の法事。
親戚中が集まる。面倒な、いとこ、はとこ達も山ほど。
――――……だるすぎ。
「まあ――――……明日だけは、なるべくうまくやってくださいね。適当にでいいですから」
「……分かってる」
明日の事を思うと、ため息しか出ない。
――――……まあでも。マンション帰らなくて済むからいいか。
そっちの思考にも、ため息が漏れた。
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