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第22話「何で隣に」*奏斗

 えーと…………。  …………なんで四ノ宮が隣に……。  …………隣に居たの? ずっと??  三か月近くも前から?? 嘘でしょ?  ――――……意味が分からない。  部屋に入って手を洗いリビングに入ると、ソファに座ってた真斗がオレに視線を向けた。 「隣の人、知り合いだったの?」 「そう。……ていうか、ついさっきまで一緒にご飯食べてた奴、なんだけど……マジでびっくり……」 「そんな、隣を知らないとか、あんの?」 「……だって、会わなかった。なんか挨拶に来てくれてたらしいけど、会えなかったみたいで。 ……ていうか、何なら、逆隣も知らないんだよね」 「そんなものなの?」 「うん。そんなもんだね……」  真斗は、ふーんと声を漏らした。 「……なんか、すっげえイケメンじゃなかった?」 「え?」 「さっきの奴」 「……ああ。四ノ宮ね、王子って呼ばれてるよ。大学で有名人」 「カナ、好み?」 「まあ、顔だけならね……」  オレの言葉に、真斗はふーとため息をついた。 「顔だけで、変な奴と付き合うなよな」 「…………心配してくれてんの?」  ふ、と笑ってしまう。 「当たり前だろ」 「弟にそんな心配されるって、ほんとどーかと思うね、オレ」  思わずため息をついてしまうと。 「だってカナ、なんか抜けてるから心配するだろ」  ふー、と余計大きなため息をついてしまう。 「抜けてるって……んーまあ。これからもう少し気を付けるよ」 「もう少しじゃなく、かなり気をつけろよ」 「……はいはい」  苦笑い。 「あ、真斗ってご飯食べたの?」 「食って来た」 「じゃあシャワー先浴びる?」 「ん」 「用意しとくから浴びといていいよ」 「……いってくる」 「うん」  真斗がバスルームに消えて、オレは、真斗用に置いてある部屋着とか下着、あとバスタオルを脱衣所に置いた。 「なあ、コーヒー飲む?」  声をかけると、「飲む」と返ってきた。  キッチンでコーヒーを淹れながら、四ノ宮側の壁を何となく見てしまう。  ……この向こうにあいつ、居るんだよな……。  …………良かった。会ったのが今日で。  オレ、昨日とか会ってたら、意味が分かんなくて、大パニックだったよな。  なんか企んで引っ越してきたのかとか。  ってそんな訳ないと思い直したりするんだろうけど、でも、得体がしれないと思ってたから、絶対絶対怖かったはず。あーほんと、良かった。  ……さっき、家の前で会った時。  四ノ宮、ほんとに驚いた顔してたから、もうほんとにオレら、お互いに知らないまま生活、してたんだなーと。……嘘みたい。  このマンション、大学から近い、ここらで一番セキュリティの良いとこだって、母さんが言ってたし。そういうので選んだらここになるのかなとか。  そういえば、去年まで隣に住んでた人は大学四年だったから居なくなって空いてたんだろうなーとか。その人はオレが去年挨拶に行った時に一度だけ会って、それきり。そう考えても、ほんと隣と全然会わないんだよね。  そこらへん考えると、偶然隣ってことも可能性としては無くはないのかなとは思うのだけれど。  今まで一度も会わなかったのに、あんな話をした日に会う、とか。  食事一緒で、同じ時間に帰り始めたっていうのもあるんだろうけど、それだってほんの二、三分違ったら……オレの鍵が鞄の中で行方不明にならずにすぐ見つかってたらもう部屋に入ってたから、会わなかった訳だし。  こんな日に会うとか。  ――――……へんな縁がある、なのかな。  知らずに苦笑いを浮かべてしまっていたらしい。 「何変な顔で笑ってンだよ?」  出てきた真斗に、そんな風に突っ込まれてしまった。 「あーいや…… さっきの……隣のさ。四ノ宮。すっごい驚いた顔してたなーと思ったら……変な縁だなあっておかしくて」 「ああ……」 「真斗、水飲みなよ」  真斗に水を渡すと、受け取りながら、じっと見られた。 「さっきの奴って、大丈夫? 害無い?」 「害って……あいつすげー女にモテるんだよ。どノーマルですって言ってたし」  オレの言葉に、真斗は振り返って、少し眉を顰めた。 「――――……つか、何? そいつ、カナのこと知ってんの?」 「え。……ああ、そう。ちょっとバレて……」 「何やってんだよ……」  真斗の呆れたような顔に、ごめん、と何故だか謝ってしまう。

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