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第29話「疲れた」*大翔

 ああ、マジで疲れた。  法事は無事に終わった。店での食事会も終えた。その後、屋敷に戻ってから行われてる集まりにもちゃんと参加して、ある程度の時間は既に経った。  ――――……もう用はない。もー無理。  オレは、トイレに行くふりをして、親戚一同集まっている部屋を出た。葛城に合図をしておいたので、葛城も少し後から部屋を出てきた。 「どうされました?」 「葛城、オレ、やっぱりもう帰る。――――……車呼んで」 「泊まられるんじゃないんですか?」 「皆泊まるんだろ? オレが泊まったら、このまま夜中まであいつらに付き合わされて、朝食も一緒で、下手したら明日も何時に帰れるか分かんねえ。もう限界、無理。――――……明日早くから予定があるってことにして、帰る」 「大翔さん……」  葛城がめいっぱいの苦笑いを送ってくるが。 「まあ、今日一日、よく頑張ってらしたので――――……分かりました。私が送ってさしあげます」 「……いいのか?」 「まあ。私も少し息抜きに」  ふ、と笑んだ葛城に、ほっとした所で。 「きちんと、皆様にご挨拶してこられたら、お送りします」  その言葉に、かなりげんなり落ち込む。 「――――……トイレ行って、気合入れて、それから回る……」  あいつらと別れて、今日中に帰るためだ。  頑張るしかない。  思いながらも、大きなため息をついて、オレはトイレに向かった。 ◇ ◇ ◇ ◇  苦痛でしかない挨拶回りを済ませて、更にぐったりしたオレは。  葛城の運転する車の後部座席で、背中を埋めさせて、片肘を窓にもたれさせた。 「なあ、オレまだ十九だけど」 「はい」 「……なんで結婚の話されんだ」  オレの言葉に葛城は、ああ、と失笑。  いとこ、はとこはかなり数が多くて、仲がいい奴も居れば、対抗意識なのか、あんまりよくない奴も居る。嫌味な奴もいるし、楽しいというよりは疲れることの方が多い。  しかも、上っ面で話してるから、時間が長いと、マジで疲れる。  今日はもう朝から夜までずっと一緒だった。 「本家が分家が、うるせーし。どーでもいいし」 「そうですね」 「……見合いなんてしねーし、婚約なんてするか。バカかよ」  ああ、と、葛城が笑う。 「ちなみにそれは、どなたからのお話ですか?」 「親父。……と後は色々。叔父叔母全部」 「さすがに全部じゃないでしょう」  めちゃくちゃ苦笑いしながら、葛城が言う。 「つうか親父だよ親父。今時、十九の息子に見合いをすすめるって何」 「|翔一《しょういち》さまは、奥さまと、お若い頃のお見合い結婚ですからね……それでよかったと思われてるんでしょうね」 「昔と違うし、絶対見合いなんかしねーし。親父に言っといて、葛城」 「折を見て、一応伝えますね」 「一応じゃなくて、確実に」 「はい」  葛城は笑ってる。  はーとため息。  でも葛城に、送ってもらえて良かったかも。  愚痴っている間に、落ち着いてきた。      マンションに近付くにつれ、考えないようにしていたことが、ふと頭を過ぎった。  ――――……先輩の客……もう帰ったのかな。  なんか、また、モヤついてきた。 「そういえば、大翔さん」 「……ん?」 「雪谷さんですが」 「……ああ?」 「ゲイだとおっしゃってましたよね」 「……ああ」 「昨日その話の時、 知り合いに居るか聞かれましたよね?」 「ああ。聞いた」 「何か聞きたいことがありましたか?」 「――――……ああ、そういえば……… ゲイって、さ」 「はい」 「恋人作らず、一夜限り、みたいな奴が多いのか聞きたかったんだけど……知り合いにはいないよな?」 「――――……居ますよ、何人か」 「居るのか……」  何人も? ……相変わらず、底が知れない。 「ええ」 「……皆、恋人は居るのか?」 「内二人はカップルです。一緒に暮らしてます」 「......そっか。他は?」 「恋人は居てずいぶん前に別れたある友人は、一夜限りみたいな感じらしいですけど」 「……そういうのが多いの?」 「どうなんでしようね、別に男女でも、ありますよね、一夜限りなんて。大翔さんもあるでしょう?」 「……まあ」 「……あるんですね」  苦笑いされる。あ。口、滑った。 「程々になさって。相手を選んでくださいね」 「……聞いとく」  葛城が苦笑い交じりの、ため息をついている。

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