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第30話「悶々」*大翔

 ……ち。余計なこと言ったな。 後悔していると。 「男女と違って、結婚という形が取れないっていう点が違う気もしますね」 「……違うと、何?」 「別れがたやすいのかも、とは思います。子供の為に別れないとか、男女ならありますけど、それもないですしね。愛情が全てな関係ですよね……」 「ふーん……」 「――――……それは、雪谷さんの話ですか?」 「んー……恋人は要らないんだって」 「そうですか。……何かしらそう思う理由はあるんでしょうけど……人それぞれですね」 「……もう二度と要らないって言ってた」 「過去に、恋人と何かがあったという事、でしょうね」 「――――……まあ。そうだよな」  1人と、1回限り。  ――――……もう、気持ちはそこには要らねえっつーことだよな。  1回だけ……。  きっと、少しの、執着も感じないように。  ……徹底してンな。  ぼんやりと考えいたら。  葛城が、静かな声で言った。   「そこらへんは――――……踏み込まない方が、いいですよ」 「え?」 「……ご本人は色々考えての事でしょうから。――――……大翔さんが覚悟を決めて踏み込むんじゃなければ、軽々しく、入らない方がいいですよ」 「……ああ。分かってるよ。踏み込む気なんか、ない」 「……そうですか」 「――――……そもそもオレ、男に興味なんかねえし。覚悟なんかねえし……無理」  それきり話を終わりにして、オレは、窓の外に、視線を向けた。  マンションに着いて、葛城が来客用駐車場に停車する。オレは車を降りた。 「葛城、ありがとな」  そう告げて、顔を上げると。 ――――……雪谷先輩がすぐ近くに、立っていた。驚いた顔で。 「――――……」  顔には出さなかったけれど、こっちも、十分驚いた。  何で今まで一度も会った事無かったのに、昨日に続き、今日も会うんだ。 「……雪谷先輩」 「う、わー。四ノ宮……」  名を呼んだ瞬間。先輩からそんな声が漏れた。 「うわーって何ですか。失礼ですよね」  不愉快。  それを思い切り顔に出した、オレ。  ――――……つい今の今迄、葛城と完全に素で話してたからってのも、あるかもしれないけれど。先輩にも、かなり素が出せそうな予感もしてきた。 「あ、ごめん。 だってここ数日の、お前の出現率が半端なくて」 「こっちのセリフでもあるんですけど。オレが出現してるみたいな言い方やめてくれません?」 「確かに。お互い様だった」  先輩がクスッと笑う。そんなやりとりをしていると。  葛城が、降りてきて、先輩に挨拶をし始めた。  そんなやりとりをしていると。  葛城が、降りてきて、先輩に挨拶をし始めた。  葛城は勘が良いから、オレの素の話し方で何かを悟ったから、わざわざ車から下りてきたんだろうと思って、会話を聞いていると。  案の定、先輩と話した葛城は、昨日伝えた「ゼミの先輩」と「雪谷奏斗」を先輩の言葉で聞くと。――――……興味深そうに、顔を綻ばせた。  昨日葛城が、先輩の名前を覚えておくといった時は、どうせ会う事もないしと思ったのだけど。  まさかこんなに早く会うとは。  執事という言葉に興奮気味の先輩。  ……面白いな。  そんな先輩を、品定めでもしてるんだろう。妙にゆっくり間を置いて話している葛城が「大翔さんをよろしくお願いしますね」とか、言い出した。  ……先輩が、葛城のお眼鏡にかなったっつー事か。  ……それにしたって、先輩にしたら、意味が分からないに違いない。  「お会いできてよかった」なんて言葉に、更に先輩が戸惑ってるのを見て、オレは、一歩前に出た。 「……葛城、ありがと、送ってくれて――――……もう、帰っていいよ」  ちら、と葛城が視線を送ってくる。  もう帰れ、と少しだけ眉を顰めると。  大きなため息をついて、適当に挨拶をした葛城は、やっとのことで帰って行った。  何となく見送ってから、先輩と一緒に部屋の前に到着。  鍵を開けて、何となく、先輩に視線を向けた。 「……これからどっか行くんですか?」 「え? これから? 行かないよ?」 「……クラブとか」 「行こうかなと思ったけど……ちょっと体痛いし。やめた」 「――――……そーですか」  ――――……体。痛い。  それって。  ……何をして、痛くなってる訳。  ――――……やっぱ、家でも、そーいう事する訳か。  ……あー。昨日、向こう行っといてよかった。 「あ。アイス、食べる? さっきいくつか買って……一回冷凍庫で冷やしたほうがよさそうだけど」 「……いらないです。おやすみなさい」  オレはそう言うと、先輩から視線をはずしたまま、別れた。 なんか。  ――――……すげえ、悶々とする。

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