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第32話「ムカつく」*大翔
アイスを選ばせてもらって、テーブルに座った。
「はい、コーヒー」
「――――……ありがとうございます」
すごくイイ香りのコーヒーが、目の前に置かれた。
「うん」
にこ、と笑うと、先輩はオレの前に座った。
2人掛け用のリビングテーブル。
すごく、先輩が近くに居る。
ほんと、変な空間。
何でこの人と、こんな、2人きりで居るんだろう。
あの日、たまたまクラブで見かけて。
――――……ついていって。あんな風に話さなかったら。夕飯も一緒に食べてないし。それで帰るタイミングが違ったら、ここに住んでる事も、きっと知らないままで。
こんな風に、2人きりで、なんてありえなかった。
「どーぞ」
言われて、いただきますと、アイスを食べ始めた。
自分で買わないメーカーのアイス。
ふーん。……これ、美味しい。
「――――……変なの、お前がここに居るの」
先輩が言う。――――……そんなの、オレも、ずーっと思っていた。
「オレもそう思います」
「あ、そう思うんだ」
クスクス笑いながら、先輩もアイスを口にした。
「あ、美味い、これ」
あたりだな~とか言いながらアイスを見てる先輩のスマホが鳴り始めた。
「あ、ごめん。ちょっと電話するね」
オレが頷くと、先輩が話し始めた。
「真斗? うん。ああ、シャワーだった?」
「まさと」
……こないだ泊りに来てたあいつか。
「え、お前体痛くねえの? オレ絶対明日、すげえ筋肉痛だけど」
ぴき、と自分が固まるのが分かる。
――――……やっぱ、相手、「まさと」か。確認するまでも無かったか。
「ふざけんなよ、午前も午後も付き合わせといて、そんな事言う?」
――――……午前も、午後も?
なんか、モヤモヤが半端ない。アイスを口にパクパク運んでいく。
もう用はない。さっさと食って、帰ろう。
「現役のお前によく付き合ったと思わねえ? つか、オレ、すげえ頑張ったのに」
――――……? ん? 現役のお前?
「言われなくてももう絶対ゆっくりするから――――……うん。おやすみ。頑張って」
通話を終えて、先輩がスマホをテーブルに戻す。
「ごめんな」
「いえ――――…… あの……今の電話って……」
何と聞いていいか分からない。
最初そういう話かと思ったけど――――……なんか、言い回しと、話してる感じから行くと。なんか、違う気もしてきた。
先輩はオレを見て、首を傾げてる。
「昨日ちょっとだけ会ったろ?」
「……はい」
「弟だよ。真斗っていうんだ」
先輩のセリフに。
――――……昨日からのモヤモヤが死ぬほど馬鹿らしくなって。
硬直。
くっそ、そのせいで、実家になんか泊りに行ったせいで、早く来てた親戚たちと、面倒な夜を過ごしたっていうのに……。
「え? 何でそんなに、固まんの? 真斗がどうかした??」
――――……あぁ。
……そう言う事か。
……弟、ね。
ぐったり。
なんでオレはこんなに、力入れて、聞いて。
……弟なんつー、回答にこんなにぐったりさせられてンだ。
…………先輩は、目の前でアイスを食べながら。
こいつ、一体今何考えてるんだろうなあ、的な、不思議そうな顔でオレをじっと見つめてる。
しかもちょっと面白そう。
……この人は、無意識に人の中身、感じ取ろうとする人だから。
…………絶対ぇ読ませねえ。むかつく。
「弟、仲いいんですね」
「うん。仲いいよ」
「……何で体痛いんですか?」
「バスケ。今日1日付き合ってたの」
――――……そうだよ。
……普通は、体痛いっつったら。そういう方を考えるわ。
家に、超イケメンと入ってったりするから。
……つか。一晩限りで遊んでるとか、そんなこと、この人が言うから。
…………ち。
思わず舌打ちが漏れた。
「え?」
先輩、目の前で、目が点になってる。
「え、今舌打ちした?」
「してません」
「ちって言った?」
「言ってません」
「言ったよね?? え、今の会話のどこに舌打ちポイントがあんの?」
ものすごい興味ありげに身を乗り出してくる。
……ウザイ。
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