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第33話「シャットアウト」*大翔
ひたすら無視して。
初めてコーヒーを口にすると。
あ、美味いかも。
コーヒーを淹れるのは、葛城が一番うまいと思ってたんだけど。
「これ、先輩が淹れたんですよね?」
「……ていうか、オレ一人暮らしだから、オレしか居ないけど」
くす、と笑って、先輩が言う。
……まあそりゃそうだけど。
「何、そんなにうまい?」
「……はい」
「コーヒーメーカー使ったけどねー。でも直前に挽いてるし、豆の味が合ったんじゃない? 良かった。アイス食べるからちょっと苦めのにしたんだけど」
「美味しいです」
「そかそか」
ふふ、と笑って、先輩もコーヒーに口をつける。
喋ってると、なんかかなり幼い気がする。
弟の方がよっぽど年上みたいだ。
でも、黙って、コーヒーを飲んでる姿は。
……結構、イイかも。
一枚の、絵みたいだな。
ほんと。――――……整った顔。
「弟、何才ですか?」
「今、高3」
「まさとって漢字は?」
「それ知りたい?」
「何となく」
先輩は面白そうに笑った。
「オレが奏斗じゃん? 漢字分かる?」
「はい」
「真斗は 真実の真、に、オレと同じ斗、ね」
「そうですか」
…………悶々としてた相手の名前。
何で聞いたんだかよく分かんねえが。まあいっか。
と思っていると。
先輩は、ぷっと吹き出した。
「ほんとに今の聞きたかったかー?」
クスクス笑いながら、オレを見つめてくる。
だから。探るのやめろっつの。
こういう細かいとこから、ことごとくバレそうで、なんかすげえ嫌。
――――……でも。
嫌だけど。
……隠さなくていいのかなって。
――――……どうせバレるなら、隠さなくてもいいんじゃないかと、そんな気持ちが、心の端っこの方にある気がする。
「あ。そうだ。四ノ宮に言っときたい事があったんだけど」
アイスを食べ終えた先輩が、コーヒーを口にしてから、少し改まった感じでそう言った。
「――――……何ですか?」
「……あのさあ……」
「はい」
――――……なんか言い辛そう。
「……あのさ、お前さ? オレがさ」
「はい」
「……すっごい、色んな奴と遊んでると……思ってない?」
「――――……」
何かいきなり、変なとこにズバリと質問飛んできたな。
何だそりゃ。意味わかんねえな。
心の中で言ってると。
「あ。なんか呆れてるだろ」
――――……もしやエスパー?
オレは、多分今、相当無表情だと思うんだが。
「……なんかさ、さっきもさ、これからクラブ行くとか聞いてきたしさ」
「――――……」
「……オレが、相手探して1回限りでとか言ったのが悪いんだと思うんだけど……」
「――――……」
なんかそこまで言って、困ってる。
「確かに、そういう事、よくしてんのかなとは思いましたけど。 ……違うんですか?」
「――――……違う……いや、よくしてるっていう定義がさ、よく分かんないんだけど……」
「こないだ木曜でしたし。 週末とか関係なく、平日とかも好きなように漁ってるのかなーと……」
隠してもしょうがないと思い、思ってた事をズバリ言うと。
何を思ったのか、顔を赤くして。ぐ、と言葉に詰まって。
先輩は、はあ、とテーブルに突っ伏した。
「……やっぱり。お前、オレの事、すげー遊び歩いてるとでも思ってんの?」
「……何となく」
「……回数言うのもあれだから言わないけどさ」
「――――……」
「……なんか、そういうのがほんとに耐えられなくなった時だけ、だから」
「それが週1とか2とか3とか」
「んな訳あるか!!」
赤い顔で、ばっと起き上がって、そう叫ぶ。
――――……おもしろ。
「……しかもオレ、バレたくないっていうのが一番だから。どうしてもの時だけだから」
「――――……はあ……」
そんな話、オレにして、何が言いたいんだろう?
首を傾げた瞬間。
「だからさー……なんか普通の会話で、オレが夜な夜な繰り出してるみたいな質問してくるのやめてくんない?」
「――――……」
……あぁ。
さっき聞かれたのが嫌だった訳ね。
――――……大体オレ、あれは何で聞いたんだっけ……。
別れ際、なんか、気になったんだけど……。
なんでだっけ。
「回数が増えて、相手が増えれば増えるほどさ、リスクも大きくなるし……多分お前が思う程じゃないから」
「……分かりました」
……って、何が分かったんだかも、ちょっとよく分かんねえけど。
だって、この人が、知らない奴と会ってすぐ、そういう事されてんのには、変わりはねえし。
「……恋人、作らないんですか?」
あ。やば。
――――……葛城に、踏み込むなって、言われたんだった。
言った瞬間、思ったけれど。
「うん。要らないから」
一言で、終わったから。
踏み込みようもない。
あ、よかった。
そう思ったけれと。
完全にシャットアウトされたような答え方に。
――――……なんか、ムカつく。
何だろ。
何でオレ、この人と話してると、あれこれ、何回も、色々、
モヤモヤしたりムカつくんだか。
「てことでさ。 なんか遊び人みたいなイメージ、捨てといてね」
一瞬固まった表情はすぐに戻って、明るい笑顔で、先輩はそう言った。
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