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第34話「譲れないもの」*大翔
「なあ、お前んちってさ」
「はい?」
「どんだけ豪華なの?」
ものすごくワクワクした感じで、身を乗り出し気味。
ああ。……分かった。
「執事、に反応してますよね、先輩」
「うん! だって 執事なんてほんとに居るんだって思って」
……すげー楽しそう。
「しかも、あんな若くてさ。すっげーカッコいいっつーか。何なのかな、あの落ち着いた感じ。 オレの中の『執事』をものすごい体現してくれてる感じだったし! まあテレビとかのだけど」
「――――……」
……カッコいい?
「……葛城、好みですか?」
「え? ……好み?? …………ああ。そういう事?」
固まった後、そう聞いてくるので、頷くと。
先輩は、またものすごーく、嫌そうな顔をした。
「もう、お前の中のオレ、どーなってんの……」
どーなってるって……。
……さあ。どうなってんだか。
「あのさあ……四ノ宮だってさ。 キレイな子とか可愛い子が居て、そう思ったからって、その子達が全員そういう対象にはならないだろ?」
「……まあ」
「それと一緒だよ。つーか…… オレは、もっとかな。もうほとんど普段は対象にはしないから。限定した所でマッチしたらって感じだし。 カッコイイとか言っても、全員そんな風には思わないからね」
むーーーと、口を尖らして、なんか子供っぽく怒ってる。
「確かに、葛城、さん? すごく、カッコイイなーって思ったけど」
……ムカ。
「執事って聞くと余計にって感じだし。あ、あと、四ノ宮と並んでると余計だったなー」
「……?」
「2人そろってると超迫力あった。 なんか高そうな車の横で。ちょっと怖いかも」
「……怖いって何ですか?」
「迫力ありすぎ? なんかテレビとかでさ、悪い事とか、しちゃいそう」
「どんなテレビですか」
呆れたように言うと、先輩は、ふ、と笑う。
「何だろ?」
言いながらクスクス笑ってから、先輩はコーヒーを口にして。
「四ノ宮の家って、どんな感じ? 一軒家じゃないよね?」
「んー……テレビで見る、デカい屋敷……だと思ってくれたらいいかもです」
「そうだよねー。執事がいるんだもんねー」
「……別にオレが偉いんじゃないし。 ……オレにとったら、面倒な家でしかないですよ」
「ふーん。やっぱり家、継がないといけないの?」
「……姉が居ますけど、多分継がないんで。いくつか会社経営してて。まあ親父はそれを好きなんだろうけど……」
「ふーん……?」
「法事で帰ってたんですけどね――――……オレ、結婚すすめられますからね」
「え。マジで?」
「多分マジですね、あの人達」
「大変だねー……」
なんか呑気な返答に。
――――……ちょっと、力が抜けた。
ぷ、と笑ってしまう。
「なんすか、その気の抜ける返事」
「え、そう? まあでもさ。 なるようにしかならないよ、きっと」
「――――……」
「どうしても譲れないものは守ってさ。譲れるものは色々考えて一番いいと思う事をしてくしかないかなって。オレは思ってる、かなあ……あんまり嫌だ嫌だって考えてたら、疲れちゃうよ?」
「――――……」
「結構特殊だもんな、その状況ってさ。 お金持ちで良いなーとか。そんなんだけじゃないよね、きっと」
まっすぐな瞳で、こっちを見つめながら、ぽんぽんと、言葉を紡いでく。
「先輩の……どうしても譲れないものって、何ですか?」
すごく興味があって、聞いてみた。
「――――……んー……」
ちょっと顔ふくらませて。
ふー、と息をついて。
「……親に反対されてもさ。弟に迷惑、かけても。ゲイってのは、もう無理だからさ。そこは譲れないから……それ以外の所は、まあ……色々頑張ろうかなーとは思うけど…… まあそれだけじゃないけどね」
言いながら視線が落ちて行って――――……。
こっちまで少し、胸が痛い。
けれど言い終えると、ふ、と顔を上げて、オレを見つめてにっこり笑う。
「まあ、なんか大変そうだけど、頑張れよな。 恵まれてるってのは絶対だろうし。そこに居るから、出来ることも、いっぱいあるんじゃない?」
クスクス笑いながら、そんな風に、言われる。
「たまってきたら聞くからさ」
「――――……」
「協定、だろ?」
暗い部分、たまに微かに見えるけど――――……
すぐに隠して、鮮やかに、笑う。
ほんと何なんだろ――――……。
この笑顔だけ見てたら――――…… 絶対わかんねえな。
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