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第36話「気づかない振り」*奏斗

 真斗の話をしていたら、四ノ宮は、よく分からない硬直。  それを聞こうと思ったら、ものすごい嫌な顔をして、その後ポーカーフェイスになってしまった。  ……ほんと。おもしろ。 「弟、仲いいんですね」 「うん。仲いいよ」 「……何で体痛いんですか?」 「バスケ。今日1日付き合ってたの」  そう言ったら、眉を顰めたまま、オレを見てくる。  かと思ったら。 「…………ち。」  急に舌打ち。 「え?」  ほんと、全然意味わかんない。 「え、今舌打ちした?」 「してません」 「ちって言った?」 「言ってません」 「言ったよね?? え、今の会話のどこに舌打ちポイントがあんの?」  何なの、こいつ。  ほんと、思わず舌打ちしたって感じ。――――……何か、すごく気に食わない事があったって事だよね?  え、今の会話に何が??  もう聞きたくてしょうがなくて。  舌打ちがムカつくとかそんなのは無く、ただ、何で舌打ちしたのか、理由を聞いてみたい。  四ノ宮って、ほんと不思議。  少し前まで不気味だった後輩は、もはや、オレの中で、すごい興味の対象になったみたいで。  とりあえず、硬直や舌打ちの理由を聞きたい。  のだけれど。  鉄壁の王子用に作る事ができるらしい、ポーカーフェイス。  うーん、ポーカーフェイスと言うには――――……すごく、嫌そうではあるけれど。  とにかく、嫌そうって事以外、何も、読み取れない。  話す気、無さそうだな。  苦笑いが浮かびそうになっていたら。  コーヒーを飲んだ四ノ宮が、あ、と、少し驚いた顔をした。 「これ、先輩が淹れたんですよね?」 「……ていうか、オレ一人暮らしだから、オレしか居ないけど」  くす、と笑ってしまう。  今、美味しい、って顔、した。 「何、そんなにうまい?」 「……はい」 「コーヒーメーカー使ったけどねー。でも直前に挽いてるし、豆の味が合ったんじゃない? 良かった。アイス食べるからちょっと苦めのにしたんだけど」 「美味しいです」 「そかそか」  ふふ、と笑って、自分もコーヒーを飲む。  ――――……美味しいコーヒーを飲む時が、一番落ち着く。  なんかその味を、四ノ宮も美味しいって言ってくれて。  嬉しいなあ、なんて思っていたら。  真斗の事をいくつか質問された。年とか、名前の漢字とか。  思わず、それ本当に聞きたいの?と笑ってしまった。  何が聞きたかったんだか、全然分からない。  もう少し仲良くならないと、全部は話してくれないのかもなあ……。  あ――――…… 話すと言えば。思い出した。   「あ。そうだ。四ノ宮に言っときたい事があったんだけど」 「――――……何ですか?」 「……あのさあ……」 「はい」  ものすごく言い辛いが。  言っておくしかない。 「……あのさ、お前さ? オレがさ」 「はい」 「……すっごい、色んな奴と遊んでると……思ってない?」 「――――……」  そう言ったら、完全に動きを止めてしまった。 「あ。なんか呆れてるだろ」  そう聞くと、どうして分かったんだろう的な顔。  オレが相当遊んでいると思ってるらしい四ノ宮に、とにかく、そんな事は無いって事を伝えた。  すると、飛んできたのは。 「……恋人、作らないんですか?」  ――――……そんな質問で。  オレは。  ――――……もう、それ以上は何も聞かれないように。  これ以上は、踏み込まれないように。 「うん。要らないから」  そう言って、会話を断ち切った。  すると、四ノ宮は、相当ムッとした表情。  すごく、分かりやすい。  これはもう――――……隠そうとしてない気がする。  でも。  ――――……この話、掘り下げたくないし。  ものすごく、ムッとした顔に。  オレは、気づかない振りをするしか、無かった。

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