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第39話「人が好い」*大翔
涙に、全然関係ない事でモヤついてる間に、映画が終わった。
その間も、ところどころ泣いてる。
――――……何度も見たい位、好きな映画だし、感動はするけど。
こんなに素直に泣けるものかと、ちょっと呆れてしまう。
しかも、オレ、居るのに。関係ないんだな……。
エンドロールが流れ始めても。
余韻に浸ってます、て顔して。全然動かない。
――――……なんだかなー……。ほんと。わかんね。
で、何でオレは、そんなこの人を、見てンだ。
……不思議な位、素直だから……かな。
ゲイで。多分恋人が要らないって頑なになるような事があって。
父親に反対されて?
クラブで男探すような真似して、一晩限りで寝て。
なんか、頑ななとこあるくせに。
……なんかものすごく素直で、こんな風に泣くとか。
――――……何なんだ。
感情が、整理できない。
オレがムカつくような事じゃない、そう思うのに。
エンドロールを見終えた先輩が少しして、オレを振り返った。
「……泣いた?」
「――――……いえ」
「泣かないの?」
「……人が居ると泣けないです」
こんだけ泣いてる人を前にすると、泣かないと罪みたいな気がして。
思わず、泣かない理由を作って、そう言ってしまった。
すると、え、という顔をして、先輩は固まっている。
「あ……ごめんな?」
「え?」
「貸してあげればよかったね。明日観るなら持って帰っていいよ」
「――――……」
オレが、先輩が居るから泣けなかったんだと信じて。
ごめんな。貸してあげればよかったね、だって。
優しい人なんだろうなと、思う。
思わず、ふ、と笑んでしまった。
「――――……いいです。細かいとこは思い出せたんで」
そう答えたら、先輩はん、と頷きながら。
「なあ四ノ宮?」
「はい?」
「……素を出しても、お前からそんなに人、離れないと思うけど」
「――――……」
「離れる奴は、それでいいじゃん?と、ちょっと思ったんだけど……」
――――……は……。ほんとに、人が良い。
なんか、騙されそうだなぁ……。
「あ。ごめん……余計な事……だった?」
「――――……先輩がゲイっていうの言っても、人、そこまで離れないと思いますけど」
オレの事、言う前に、自分の事考えればいいのに。
オレの外面に気付いたのは、自分がゲイなのを隠したいから、それで周りに気を配ってたからだって、言ってた。
そんな、オレのこんなのまで気づくほど、周りに気を使ってまで、ゲイって今時隠さないといけないのか?
性の多様化を認める動きは、最近とくに大きい。
多分、ゲイだからってそれを差別したら、差別した奴が責められるような風潮。
それでも、多数派を良しとするこの国だから、まあ、知られたくないというのは分からなくもないが。
でも、この人がこの見た目でゲイだと言っても、あーそうなんだ、位じゃないだろうか。
……オレはこの人がゲイって事が受け入れられないんじゃなくて……。
なんでだか……抱かれてるとか。そんなことが。
あり得ないと思うだけで。
ゲイだからって大したことはない。
そんなに、必死な思いして、隠さなくたっていいのに。
そう思って言ったんだけれど。
先輩は、どう思ったのか、長い沈黙。
「……ごめん、今の無し。 ……隠したい事、それぞれ違うよな」
――――……無し?
……まあ、言いたくはない、てことか。
……まあ。分かるけど。
オレが黙っていたら、先輩は、不意に何を思ったんだか。
「とりあえずオレは、お前の素がどんなでも、居るから安心して」
そう言った。
……何言ってんだろ。この人。
「協定結んだもんな」
まっすぐな視線を向けてきて、にこ、と微笑む。
はーもう。
――――……すげえでっかいため息を付きたい。
何なの、この人。
言う事、なんか本当に予想外で、ほんと――――……。
なんか、中を、揺さぶられる。
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