41 / 506

第42話「優しいって」*大翔

 心と違う、自分の行動に、何だかすごく葛藤していると。  先輩が不思議そうに話し始めた。  「……四ノ宮ってさあ、ニコニコしてないとしかめっ面になっちゃうの?」 「……そんな事はないですけど」 「じゃあ何、オレとしゃべってるとそうなるってこと?」  聞きづらい事、よくもそこまではっきり聞けるな。その質問にオレが頷いたらどうすんだろ。  聞いてみるか。……やめるか。  ――――……興味の方が勝った。 「……そうかもしれませんね」  そう言ってみたら。  先輩は、豆を挽いてた手をぴたっと止めて。 「うっわ、ひどい……」  がーん、みたいな顔をして固まってる。  ああ、そうなるんだ。すげえ素直……。  ――――……と思ったら、くっ、と笑ってしまった。  何だか、堪えきれなくて。 「何でそこで笑うんだよ、お前」  むー、と眉を顰めながら。  でも、笑ってるオレを見てると、ふ、と自然と笑顔になる。  笑顔のまま、再び豆を挽き始める。  ムカつくこと言われてんのに。  オレが笑ってると、そこでそんな風に笑っちゃうのか。  ――――……なんだかなー…。  笑いを収めた時。  ふと気づいて、オレは立ち上がった。 「……手、痛くないですか?」 「ん? ああ、平気」 「やりますよ」  隣に立って、先輩からミルを預かる。 「――――……優しー」 「何言ってンですか……」 「結局優しいんだよなー、四ノ宮。わざわざ救急箱持って、手当てに来てくれるしさ。普通来ないよね……」 「アホな様子全部聞いちゃったんで……仕方ないですよね」 「アホいうな―」  手持無沙汰になった先輩は、キッチンに手をついたまま、クスクス笑いながら、喋ってる。  ……優しい、ね。  その言葉、死ぬほど言われてきたけど。  外面良い時。  今オレの態度は別に作ってもねえし。  ……逆に、すごく優しくもしてないけど。  優しい、て、言うんだな。 「なー、四ノ宮さ、なんかオレにムカつく事あったら、黙ってないで、言っていいよ。聞くからさ」  オレを見上げて言うと、ふっと微笑んで。それから、食器棚からコーヒーのカップを出してくる。 「豆挽いてる時ってさ、めっちゃいい香りしない?」 「……しますね」 「これが好きだから、わざわざ挽いてるんだよね」 「……分かります」 「分かる?」  ふふ、と笑って、少し近くで、コーヒーの香りをかいでる。 「あとは大丈夫、座ってていいよー」  先輩がそう言いながら、ドリッパーにフィルターをセットする。 「コーヒーメーカー使わずに、手でやるんですか?」 「うん。その方が美味しい気がして」   「――――……見てます」 「まあ。……良いけど……」  くす、と笑って、オレを見上げてから。  少しずつ、お湯を、落としていく。  微笑んで、それを見つめてる様は。    さっきまで、あんなに漫画みたいにドジな……。  もはや、かなりアホみたいだったのに。  ――――……なんか今は……。  すごく。  ――――…… キレイに、見えるな……。

ともだちにシェアしよう!