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第42話「優しいって」*大翔
心と違う、自分の行動に、何だかすごく葛藤していると。
先輩が不思議そうに話し始めた。
「……四ノ宮ってさあ、ニコニコしてないとしかめっ面になっちゃうの?」
「……そんな事はないですけど」
「じゃあ何、オレとしゃべってるとそうなるってこと?」
聞きづらい事、よくもそこまではっきり聞けるな。その質問にオレが頷いたらどうすんだろ。
聞いてみるか。……やめるか。
――――……興味の方が勝った。
「……そうかもしれませんね」
そう言ってみたら。
先輩は、豆を挽いてた手をぴたっと止めて。
「うっわ、ひどい……」
がーん、みたいな顔をして固まってる。
ああ、そうなるんだ。すげえ素直……。
――――……と思ったら、くっ、と笑ってしまった。
何だか、堪えきれなくて。
「何でそこで笑うんだよ、お前」
むー、と眉を顰めながら。
でも、笑ってるオレを見てると、ふ、と自然と笑顔になる。
笑顔のまま、再び豆を挽き始める。
ムカつくこと言われてんのに。
オレが笑ってると、そこでそんな風に笑っちゃうのか。
――――……なんだかなー…。
笑いを収めた時。
ふと気づいて、オレは立ち上がった。
「……手、痛くないですか?」
「ん? ああ、平気」
「やりますよ」
隣に立って、先輩からミルを預かる。
「――――……優しー」
「何言ってンですか……」
「結局優しいんだよなー、四ノ宮。わざわざ救急箱持って、手当てに来てくれるしさ。普通来ないよね……」
「アホな様子全部聞いちゃったんで……仕方ないですよね」
「アホいうな―」
手持無沙汰になった先輩は、キッチンに手をついたまま、クスクス笑いながら、喋ってる。
……優しい、ね。
その言葉、死ぬほど言われてきたけど。
外面良い時。
今オレの態度は別に作ってもねえし。
……逆に、すごく優しくもしてないけど。
優しい、て、言うんだな。
「なー、四ノ宮さ、なんかオレにムカつく事あったら、黙ってないで、言っていいよ。聞くからさ」
オレを見上げて言うと、ふっと微笑んで。それから、食器棚からコーヒーのカップを出してくる。
「豆挽いてる時ってさ、めっちゃいい香りしない?」
「……しますね」
「これが好きだから、わざわざ挽いてるんだよね」
「……分かります」
「分かる?」
ふふ、と笑って、少し近くで、コーヒーの香りをかいでる。
「あとは大丈夫、座ってていいよー」
先輩がそう言いながら、ドリッパーにフィルターをセットする。
「コーヒーメーカー使わずに、手でやるんですか?」
「うん。その方が美味しい気がして」
「――――……見てます」
「まあ。……良いけど……」
くす、と笑って、オレを見上げてから。
少しずつ、お湯を、落としていく。
微笑んで、それを見つめてる様は。
さっきまで、あんなに漫画みたいにドジな……。
もはや、かなりアホみたいだったのに。
――――……なんか今は……。
すごく。
――――…… キレイに、見えるな……。
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