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第43話「変な感覚」*大翔
コーヒーを淹れながら、あ、と先輩がオレを見上げた。
「四ノ宮、朝ごはん早かった?」
「……まあ。2時間位前ですかね」
「目玉焼きパン食べる?」
「……何ですかそれ」
楽しそうに言うけど、その名前のパンは食べた事がない。
「食パンに目玉焼きのっけるの。チーズと」
「……朝クロワッサン食べたんですけど」
「要らない? 美味しいよ?」
「……食べてみます」
あんまり楽しそうなので、そう言ったら、了解と先輩が笑う。
コーヒーを淹れ終えて、2つのマグカップに淹れた先輩。
「牛乳とか入れる?」
「いらないです」
「じゃあ、はい」
目の前に、マグカップを渡される。
「座って飲んでていいよ」
「ここで良いです」
カウンターに軽くよっかかったまま、オレは、コーヒーを啜った。
「……美味しいです」
「うん」
嬉しそうに、にっこり笑う。自分も一口飲んで、先輩はマグカップを置くと、冷蔵庫を開けて卵を出してきた。
「クロワッサンって、おかずは?」
「ハムとレタス挟みましたけど」
「なんかオシャレ……」
「そうですか?」
「んー、嫌がるかなー、目玉焼きパン」
クスクス笑いながら、先輩は目玉焼きを焼きながら、食パンもトースターに入れる。
「卵、固め? 半熟?」
「半熟で」
「オレも」
嬉しそうな顔で笑って火を止めるとスライスチーズを置いて蓋をしめて、焼けたパンにバターを塗ってる。
食パンの上に、溶けたチーズの乗った目玉焼きをするん、とのせて、先輩は出来た、と笑った。
両手にパンの皿を持ちながら、先輩は振り返る。
「座ろ―、あ、オレのマグカップも持ってきて?」
「はい」
一緒にテーブルについて。
「いただきまーす」
ぱく、と先輩がパンにかじりついてる。
はーオレ。
何で、朝飯2回目、食べることになってンのかな……。
「……いただきます」
「うん、どーぞ」
目の前で、ふ、と笑む先輩。
ぱく、と口に入れると。
「……うま」
目玉焼きのっけただけなのに。
「うまい?」
食べながら、頷くと、先輩は、嬉しそうに笑った。
ちく。
――――……体の奥で何かが痛い。
首を傾げる。
何だ、これ。
変な感覚。
その正体はよく分からないまま。
このパンね、真斗が好きでさ、部活の前とかちょっと腹減ったとかの時に、よく作ってあげててさー、とか。そんな事を楽しそうに話す先輩に軽く返事をしながら、食べ終えた。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「良かった」
ふ、と笑う先輩。
「ほんと、仲いいんですね、兄弟」
「まあ。高2で父さんにバレて反対された時、すげー庇ってくれたの真斗だし。まあもちろん、そこまでも仲良かったから庇ってくれたんだろうけどさ……」
「……何で父親にバレるとかしたんですか?」
「あー……キスしてるとこ、見られたんだよね」
「――――……」
何してんだ、この人……。
外でしてたってこと? 高校生とは言え……男女のカップルじゃないんだから、警戒心無さ過ぎ。
それで大変だったから今、すげえ警戒してんのか……?
「先輩、実家は遠いんですか?」
「ううん。電車乗ればすぐだよ」
「え?」
じゃあなんで一人暮らし?
思ったのが伝わったんだろう。先輩は笑った。
「……バレた時から父さん、オレにきつかったし、それで家が雰囲気悪くて。母さんや真斗にとっても。……父さんにとっても、オレを見たくないだろうし。大学入る時、頼んでみたんだ。そしたら、ここ、借りてくれたから……」
「――――……」
「まあ……母さんに頼んで、父さんに話してくれて、ここ借りてくれたって聞いた時は複雑だったけどね」
「――――……」
「父さんには、オレとの関係どうにかする気は無いんだなーって思って。……一人暮らしすればイイって、思ったんだなって……」
少し俯きながら、そんな風に言う先輩。
何だかな。
――――……いつもの、アイドルみたいなオーラの、キラキラした笑顔。
今はすっかり落ち着いてて。
ともすれば消えてしまいそうにも、見える。
――――……なんか普段とは別人みたいで。
こんなの見たくないなとも思う一方で。
あまり他には見せないんだと思うと。
また別の感覚が、胸に渦巻く気が、する。
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