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第46話「初恋の相手」*奏斗

 ――――……四ノ宮、絶対変に思ったよな……。  四ノ宮を帰して、結構な時間が経った。  ずっとソファに俯せになって、動かずに過ごして。  ――――……やっと、落ち着いて、起き上がった。  久しぶりに聞いた名前。  ――――……あんなに動揺するなんて、自分でも驚いた。  もう、吹っ切ったと思ってたのに。  もう、その顔を思い返す事も、無くなっていたのに。  真斗からの電話で言われたのは。  和希くんに会った。カナの連絡先を聞かれたから、断った。  カナは今幸せだから、邪魔しないであげてって言っといた。  母さんに電話して聞いたら、和希くん、大学からこっちに帰ってきたんだって。  母さんも、こないだ会って、カナの連絡先聞かれて、断ったって。  そういう話、だった。  |松本 和希《まつもと かずき》。  ――――……オレの小学校からの幼馴染で初恋の相手で、初めて付き合った相手。  大好きだった奴で――――…… それから、失恋の、相手。  父さんに見られたオレのキスの相手が和希で、別れたっていうのを母さんも知ってる。  あんな別れ方をして――――……。  涙も止められない、笑う事もできない、なんて、思ってたけど。  ――――……時間って、すごいもので。  痛みも次第に和らいで。    泣かなくなって、笑えるようにもなった。  もうだいぶ、忘れたと思ってたのに。  連絡を取ろうとしてる? 何で?   思った瞬間。  手が震えた。  心臓が、震えて。  自分でもどんな感情か、分からなかったけど。  ――――……何もまともに考えられなくなって。  とにかく――――……母さんと真斗が言わなきゃ、カズに………和希に、伝わるはずはない。和希が地元に帰ってきてたんだとしても……よかった、こっちに引っ越してきてて。  遠くはないけど、こんな何もない駅、大学が無かったら降りないはず。  高校卒業した時点で、スマホを新しくして、誰にも連絡先、教えてないから。小、中学や高校の集まりの連絡もない。でもそのかわり、和希のことも入ってこないですむ。  ラッキーな事に、地元の仲の良い奴は、大学には居なかったし。  友達を切るのはつらかったけど――――……。  ……幼馴染って、ほんと厄介で。  皆、オレと和希が親友だと思ってるから。  和希絡みの友達や仲間が多すぎて。辛くて。    いつか完全に吹っ切れて、どこかで和希に会っても大丈夫となったら、皆に、スマホ変えたんだって連絡しようと決めて、関係を一旦全部断つことを決めた。  ――――……いまもまだ、皆に連絡が出来ない。  大分ふっきって、思い出さなくなってたけど。  ――――……さっきの自分を思うと、まだ無理そうだなーと、嫌になる。  もし――――……。これだけ離れても、もし万一。  どこかでいつか、和希に会ってしまったら。  言葉は交わさない。  顔も、見ない。  そうしよう。  そう、決めて。  はー、と息をついた。  少し落ち着いて、手の震えは、収まった。鼓動も。普通になった。  なんであんなに、震えたんだろう。  ……オレ、まだ――――…… あいつの、こと……。  一瞬過ぎった想いは、ぶるっと首を振って、形にはしなかった。    ――――……あー。さっき。  びっくりしたなー……。  玄関で四ノ宮、見上げた時。  あいつって、和希にちょっと似てるんだな……。  雰囲気、かなあ……。  顔がすごく似てるって訳じゃない。  ――――……ここ数日じっと見つめてたけど、思わなかったし。  オレを心配そうに見下ろした、顔に。  ――――……一瞬、和希がよぎって。  和希の事で動揺してたからかな。    手、振り払っちゃった――――……。  ……悪かったな……。  しかも救急箱、置いて帰っちゃったし。  ――――……オレの動揺が、四ノ宮にも移っちゃったとしか思えない。  ――――……返しに行こ。あと謝ろ。  ……なんか。お詫び……。  うーん。お詫び……。  今うちに何もないなー。んー。  しょーがない。  とりあえず、謝りに行くか。  普通に笑顔でいこ。  さっきのこと――――……絶対気にしてるだろうし。

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