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第48話「男じゃない?」*奏斗

「はい、どうぞ」  オレが入ってきてから、キッチンの方で何かしてた四ノ宮は、マグカップを持ってきて、目の前のローテーブルに置いた。 「ココア?」 「ん。まあさっきよりは落ち着いてそうだけど、とりあえず」  ――――……ココア飲んで、落ち着いてって、事か……。  よっぽどさっき、動揺して見えたって事だよな……。     「……ありがと」  すげーあったかい、気がする。  四ノ宮も、マグカップを置きながら、ソファではなく、ローテーブルをはさんだ向かい側に座った。  はーほんとなんか絵になんな、こいつ。  王子ねー。  うさんくさいなっていうフィルターが消えたら、そう見えてきた。  落ち着いてるし、基本は優しいし。別に変な風に作らなくても、このままでいいと思うんだけどな。と。……今は地雷踏まないように余計な事は言わずに行こ。  にしても――――……何があったか話さないと、きっと四ノ宮、ずっとこの顔してそう。 「あのさ……さっきの話……していい?」 「……」  話せんの?という顔でちらっと見つめてくるから、そのまま話を続けることにした。 「あの……元カレがさ……」  言った瞬間、四ノ宮がふ、とオレをまっすぐ見つめた。 「――――……高2の時、引っ越していったんだけど……そのままいなくなるのかと思ってたら、大学からこっちに戻ってきたみたいで。真斗が会ったんだって。あ、幼馴染で近所だからさ、母さんも真斗も、そいつのこと知ってて……で、オレの連絡先、聞いてたって聞いて……」 「――――……」 「……オレもう完全に忘れたと思ってたから――――……何であんなに動揺したか自分でも分かんないんだけど……」 「――――……」 「もう、落ち着いたから平気だから。……ごめんな、なんか……急に帰ってとかさ」  四ノ宮、何も言わないで、ずっと話を聞いてくれていたけれど。  ふ、とため息をついた。 「質問したら、答えてくれますか?」 「――――……聞いてから、決めても、いい?」 「……はい」  オレのセリフに、一瞬止まって。  それから、数秒。 「幼馴染と付き合ってたんですか? いつから?」 「――――……中学で好きだって分かって、卒業式に告白して……」 「――――……」 「……高2まで」 「引っ越すから別れたの?」 「……まあ……きっかけは、そう、かな……」  何となく、濁す。  ――――……ここ以上は、別れた時の話はしたくない。  そう思って、濁したまま、俯くと。  四ノ宮は、ため息をついた。 「……恋人いらないって言ってるのは、その人のせい?」 「――――……」 「……まだ好きだから?」  その質問には、首を振った。 「もう、好きじゃない。ただ――――……」  そこまで言って、言葉が出なくなる。  四ノ宮も黙った。 「――――……ただ、もう、男と付き合うとかやめようって」 「――――……」 「そう思っただけ……」  言って、黙っていると。  四ノ宮は、もう一度、深いため息をついた。 「――――……あのさ、先輩」 「――――……?」 「オレ――――……あんたが、ゲイなのは全然良いし」 「――――……」 「抱かれる方っつーのも、まあしょうがないかと思うけど」 「――――……」  何、言ってんだろ。こいつ。 「でも、ちょっと覚えといてよ」 「……うん?」 「――――……恋人でもない色んな奴にしょっちゅう抱かれてんのとか」 「……?」 「――――……すげえムカつく」  ――――…………はい???  どういう事?  抱かれるってのは良いけど。  恋人じゃない奴にって。  しょっちゅう……しょっちゅうって……。  だからしょっちゅうじゃないって言ってんじゃん!!!  ていうか、オレ、抱かれる方だって言ったっけ?!  勝手に決めやがってー!  さっきまで和希の事で落ち込んでた頭に、色んな抗議が浮かんでくる。 「なんだよ、ムカつくって……?」 「……ムカつくって言ったら、ムカつくんですよ」 「なにそれ、今のって、恋人にならいいって事?」 「――――……まあ、多少は」  なんだよ、多少はって!  全然意味がわかんねえし! 「……だって四ノ宮だって、こないだの女の子、当日引っ掛けた子だって言ってたじゃん。恋人じゃなくてもそういう事するだろ?」 「オレは――――……良いんですよ、男だし」 「……はあ?? 何それ、オレは男じゃないっつーの?」 「……っそうじゃなくて」 「だって今そう言ったじゃん!」  思わず。声が、大きくなってしまって。抑えようと、俯いた。  何だそれ。  ――――……抱かれてるから?   ……男じゃないの?  ――――……っむかつくのはこっちだっつの。  なんか。  泣きたくなってきた。  ゲイだと。抱かれる方だと、男じゃないつーの?  ――――……意味わかんない。  恋人でもない奴に、しょっちゅう抱かれてて、ムカつくって。 「お前に、関係ないじゃん」 「――――……」   俯いたまま、低い声で、そう言って。  オレは、立ち上がった。 「帰る」 「――――……っ」 「……だからオレ――――…… だれにも、知られたくなかったんだよ」  知られて、良い事なんか、いっこもないから。 「――――……」  何か言いたげだった四ノ宮は、息を飲んで。  何も、言わなかった。  オレは、立ち上がって。  ――――……四ノ宮の家を、出た。 

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