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第53話「ムせまくり」*奏斗

 めちゃくちゃムせだしたオレを、小太郎が振り返る。 「ん? 何してンの、ユキ」 「っ……っ……っ」  良いからオレの事はほっといてと目で合図しながら、口に手を当てて咳き込んでると、小太郎と反対側の友達らが笑う。 「何どしたのユキ」 「……ム、セた……」  けほけほ。 「何ですか、相川先輩」  ――――……四ノ宮は、今日も死ぬほど爽やかだ。  めっちゃ優しそうな、王子な笑顔を浮かべて、昼食のトレイを手に、小太郎の前にきた。  むせながら、隣の奴に背を擦られながら。  オレは、なるべくしばらく顔を合わせたくなかった奴を、ちょっと見上げた。  ……オレとしゃべってる時の仏頂面は今どこに……?  そう思いながらも、まだ咳き込んでる、バカなオレ……。  オレをチラ見してから、小太郎は、四ノ宮を見上げた。 「今日さ、4限の後、図書館で課題やらないか? 今回の難しかったろ?」 「……そうですね」 「お前もしかして終わった?」 「いえ、まだ――――……昨日は終わらなくて」 「じゃあ一緒にやろうぜ」  ――――……バカ小太郎。なんで、誘うんだ。  別に全員誘う訳じゃないだろうし、後輩誘うなよ、同学年でいーじゃんか。 「……雪谷先輩も行くんですか?」  不意にこっちをまっすぐに見つめられて。 「けほ……っ……」  喋ろうとすると、また咳が出て、喋れない。  そしたら。小太郎が。 「ユキも来るよ。|翠《みどり》とかも来るし、他にも呼ぶから、他の1年にも聞いてみたら?」 「分かりました。聞いてみます。また後で連絡します」 「ん、おっけー」  まともに返事も出来ないまま、四ノ宮が小太郎にそう言って消えてくのを見守ってしまった。  しかも。  消える最後に、ちら、と視線を流されて。  う、とまた息、詰まるし。 「……んで、お前はさっきから、何むせてんの、ユキ」  苦笑いで小太郎に言われる。  だって、お前が、今一番会いたくない奴の名前を、オレの真横で大声で言うからだよっ!!  と、叫びたくなるけど。 「……サラダが……気管に……けほ……っ」 「ぷ。マヌケだな、ユキ」  ははは、と笑われる。  ……お前のせーだけど。 「なあ、あいつだろー、『王子』」  一緒に座ってた奴らが、そう聞いてくる。  小太郎が、「そう、ほんと王子みたいだろ」なんて答えてる。 「オレのサークルの1年の女子も、あいつがカッコイイって、すげーうるせーの」 「いいよなー、顔良いって」  そんな事を言ってる2人。  小太郎は、バカだなお前ら、と笑った。 「あいつ、顔だけじゃなくて、超いい奴でさー、頭も良いし、スポーツも出来るらしいし、金持ちらしいし、ほんと、ガチで王子だから。 やっかんでも無駄だぜー」  ――――……ほんと、お前、明るいな。  オレが、ゼミで過ごすうちに小太郎と仲良くなったのは、こーいう……。  分かりやすすぎるとこが好きで楽で。  なんていっても、思った事全部口にでるから。  しかも、それが出たからって、別に周りを傷つける事もない。  ほんと明るくて、良い奴。  そういうとこがすごい好きで、仲良くなった。  もう1人、すごく仲の良い翠も、こんな感じ。    小太郎と翠と居ると、なんか楽なんだよね。  高校までの友達を切ってるオレには、すごーく、大事な友達。  ……にしても。 「何で四ノ宮まで誘うの? 2年だけで良くない?」  咳が止まってから聞くと。 「だって、四ノ宮、着眼点がすごいんだもん」 「――――……え、待って、さっき難しかったろ、とか言って……教えてあげるつもりなのかとちょっと思ったら」 「教えてもらう気満々」 「――――……」  ぷっと、吹き出してしまう。  まわりの皆も、何だよそれ、と笑ってる。  さっきまで、「王子」にぶつぶつ言ってた2人も、「だってあいつ、ほんとに頭いいんだもん」という小太郎の言葉に、もう笑っちゃってるし。  ――――……ほんと。小太郎の側ってらくちん。  ……にしても。小太郎のアホたれが頼って、四ノ宮呼んじゃったけど!  はー。  4限のあと、一緒に課題かー……。  謝りもできてない状況で、皆の前で話さないといけないのは、ちょっと、キツイなあ……。うーんうーんうーん……。  悩んでいたら、サラダを延々つついていて。  また皆に笑われることになってしまった。

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