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第56話「話したい」*大翔
朝、先輩の家に寄ろうか散々迷ったけれど、何限からかも分からないし、これまで会った事が無いって事は時間もズレてるのだろうと思い、寄らずに登校した。
たまに学食で見かけたが、今まではむしろ避け気味だったし、いつどこの学食で会ったかとかは、全く覚えていないし。
偶然学校で会うのを待っていたら、金曜のゼミかもしんねーな……。
やっぱり今夜、少し顔見て話してもらうか。
そんな風に思っていた、月曜の昼。食事を買って移動していた時だった。
「四ノ宮―!」
デカい、聞き覚えのある声。
相川先輩か。
振り返ると、すぐその脇に、雪谷先輩を発見。
――――……先輩は、相川先輩がオレを呼んだ次の瞬間には、むせだした。
あーあ。 ……変に吸い込んだな。
少し呆れながら、相川先輩に近づくと。
「ん? 何してンの、ユキ」
「っ……っ……っ」
相川先輩に聞かれて、ほっとけ、と言ってるっぽい先輩は、周りの人達に笑われている。
「何ですか、相川先輩」
笑顔で聞く。
ほんとは、その後ろで、ムセながらこっちを見上げている人が気になるけど。
「今日さ、4限の後、図書館で課題やらないか? 今回の難しかったろ?」
「……そうですね」
難しいというか。昨日は全くやる気にならなかっただけだが。
「お前もしかして終わった?」
「いえ、まだ――――……昨日は終わらなくて」
「じゃあ一緒にやろうぜ」
――――……一緒に……。
「……雪谷先輩も行くんですか?」
もし先輩も参加なら、どうせ家に帰ってこないから話せない訳で。
オレもこっちに参加した方が、話せる可能性は高い。
そう聞いたけど、先輩はといえば、何かを答えようとした瞬間にまたムセてる。すると、相川先輩がかわりに答えた。
「ユキも来るよ。|翠とかも来るし、他にも呼ぶから、他の1年にも聞いてみたら?」
「分かりました。聞いてみます。また後で連絡します」
「ん、おっけー」
先輩が来るなら、別に他の1年居なくても参加。
そう思いながら相川先輩に答えて、オレは頷いた。
最後。結局一言も話せなかった先輩に視線を流す。
オレと話したくなくてわざとかと思ったけど、完全に涙目なので、無いな。
はー、とため息を付きながら。
そこを離れた。
結局その後、相川先輩から、ゼミメンバーとの連絡グループに、「一緒に課題やりたい奴4限終わったら図書館。来れる奴だけ返事して」と入ってきた。
4限の教授の話が少し長引いて、遅くなって、図書館にたどり着いた。
皆で話すための部屋に行く前に、できたら先に話したいなと思っていた。
2階に上がって少し探すと、遠くの方に先輩を見つけた。ちょうど、相川先輩達は、本を持って立ち去ろうとしていた。
今周りに人も居ない。話せそうだ。
そう思って急いで近づいてるのに、不意に先輩が、階段の方に走り出そうとしているような。
思わず、腕を掴んで、引き止めてしまった。
「え」
見上げてきた先輩の顔が、少し緊張した。
「あ。しの、みや……」
「あ。すみません。話しかけようとしたら、すげえ走りだしそうだったから」
オレは先輩の手を離し、周りを見た。
「……先に話したくて。イイですか?」
まっすぐに見つめると、先輩は、ふ、と笑って頷いた。
良かった。
――――……昨日の、傷ついた顔。
あんな風に傷つけて。
もう、話してくれないかもと、少し思ってたから。
オレを見て、微笑む表情に、ホッとした。
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