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第57話「関係ない」*大翔

「うん。ていうか、オレ今、お前を捕まえに行こうと思って歩き出そうとしてたんだけど」 「――――……何でですか」 「……謝んないと、と思って」 「――――……昨日のは、先輩は悪くないです」  あれは、オレが悪い。 「いや。悪いよ。――――……心配してくれてるって、ちょっと考えれば分かる事なのに…… オレが、勘違いして……危ない、とか。そういう意味でいったんだろ?」  ――――……先輩は、いつも。  人の言いたいことを、何となくだとしても、察する。  基本ムッとする前に、気づくはずだ。  ――――……それでもあの瞬間、先輩が怒ったのは。  多分、元カレの事で余裕が無くなってたって、ことで。  もう2、3年は経つんだろうに、まだひきずってるって……。   「……そうですけど、言い方が悪かったと思って」 「……違う、オレのメンタルが、ちょっと普通じゃなかっただけだから……ごめんな?」  先輩がそう謝る。  ――――……メンタルが普通じゃない。  自分で言えるなら……分かってるって、ことで。とりあえず今は冷静かな。  少しほっと、したら。 「……じゃあ――――……仲直り、で、いい?」  ――――……何だそれ。……ガキっぽい言い方。  何でか、一瞬心の中が、ふわ、と揺れたような気がした。  ――――……なんだかよく分かんねえけど。  とりあえず。  先輩と「仲直り」は、できた、らしい。  その後、話していたら。 「はは。そういうブラックなとこ、出せばいーのに。面白いから」  先輩がそう言った時。 「めんどくせえし――――……先輩の前でだけですよ」  何か自然とそう漏れた。  先輩は、きょとんとして、それから――――……ぷ、と苦笑いしてる。  ――――……なんかオレが今言ったセリフって。  何だろう、先輩の前だけ、とか。まるで特別、みたいな。  何言ってんだか。  一瞬、自分が不思議になりながら。  会話を続けた。  その後――――……。  本棚の所で、一緒に本を探していた時。  首に、赤い痕を見つけてしまった。  ――――……キスマーク。 しか、ないよな。  昨日。  どっか行ったってことか。  思わず聞きそうになったけど。  ――――……オレには、関係ないと、そこで堪えた。 「――――……ん?」  気づいた先輩に、見上げられる。 「……いや。 何でも、ないです」 「なに?」 「いや……」  何も言わず、一緒に本を、探すフリを続ける。  先輩はちょっと気にしてたけど、オレが何も言わなかったので、そのまま、本の方に目を向けた。  先に先輩が戻って、消えてから。  は、と息を付いた。  出さないように、堪えた言葉。 「――――……」  やっぱ、腹立つな。  ――――……何……あとなんか、つけられてんだか。  関係、無いから。言わねえけど。  つーか。何でこんなに腹立つんだろ。  なんか、モヤモヤしながらも、とりあえず関係ないと自分に言い聞かせながら、課題に取り組んでいると。  どーやら集中力が切れたらしい先輩らが話し出した。  ――――……雪谷先輩は、キスマークを突っ込まれて、彼女居ないしとか、素知らぬ顔ですっとぼけているし。  しばらく課題に集中していたのに、またムカムカが湧き上がってきた。  そんな気分なのに。  何だか知らないが相川先輩に合コンに誘われ。  はっきり言って、相川先輩の知り合いと合コンとか。  マジメに付き合うつもりならいいのだろうけど、  迂闊に手ぇ出すわけにもいかねえし、何が楽しくて、と思うのだが。  雪谷先輩が参加、と聞いて。  ――――……行こうかな、とか。  自分で、全く意味が分からない。

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