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第59話「心配?」*大翔

「四ノ宮、見て、すげー今日、月がでっかい」  目の前にある月、確かに、いつもより大きく見える気がする。 「ああ……そうですね」 「何であんなに今日でっかくなってるんだろ?」 「別にでっかくなってる訳じゃないですよね。目の錯覚らしいですけどね」 「え、錯覚なの?」 「て聞いた事ありますけど。月のサイズは、変わらないですからね」 「えー、錯覚―?」  不思議そうに、月を見上げて。 「錯覚じゃないよね、あきらかに、ちっちゃい時の何倍も大きいし」 「でも錯覚ですって」  なんか、先輩は、むむむむ、という顔で、オレを見てくる。  思わず、ぷ、と笑ってしまった。 「何でそんな顔してるんですか?」 「そーだね、大きいねって言っとけばよくない? 錯覚とか言われちゃうと、なんかつまんねー」 「つまんねえって……」  クスクス笑ってしまう。  変な人。  ふー、とため息とともに。 「……なんか昨日いっぱい、食べたんじゃないですか?」 「――――……? ん?」  きょとん、として、オレに視線を向けてくる。 「だから。昨日、月が、何かめちゃくちゃ食べ過ぎて、大きくなってるんじゃないですか?」  そう言ったら。  先輩が面白そうな顔で、オレをマジマジと、見上げる。 「え、何それ」  ぷ、と吹き出して。先輩が、あはは、と笑い出す。 「さっきと真逆すぎ。 ていうか、一瞬何言ってんのか、分かんなかったし!」 「あんたが錯覚じゃつまんないって言うからですよ」 「えーそれにしたって、普通そんな事言わないだろー。絵本に出てきそう。そんな話」  しつこくクスクス笑って、先輩が楽しそうに月を見上げてる。まだ笑ってるし、と、先輩に視線を向けたら。  首筋に見える、赤い痕。  一瞬で、何かに心が曇るけれど。  それは、口には出さない。と決めて。  一緒に、前にある月を眺めながら、歩き続ける。 「そういえば、四ノ宮、合コン、行くの?」 「あー……どうしましょうね。先輩は?」 「あの感じだと、連れていかれるかなー。金曜はゼミの食事が入るから、空けてあんの知ってるし……彼女居ないし、合コンに興味も全然ないとか。そういうのも、ちょっと困るからさー。小太郎の知り合いなら、他でやる合コンよりは緩いだろうし。行っとこうかなって思ってるよ」 「――――……そうですか」 「まあ前から、お互い彼女居ないんだから合コンしようって、小太郎言ってたからさ」 「……仲いいんだから、ばらしちゃえばいいんじゃないですか?」 「え? ああ……小太郎に?」 「そしたら合コンに誘われる事もなくなるでしょ」 「まあそうかもだけど――――……言わないよ」  ふ、と先輩は笑う。 「男が対象ってなるとさ……やっぱり、自分もなるのかなとか。思われたら嫌じゃん?」 「――――……」 「小太郎にそんな興味、一切ないのにさ。ちょっと絡んだ時とかにさ。オレが意識してるとか思われたりさ。気持ち悪がられたら、嫌だし」 「……そんなこと思わないと思いますけど」 「……可能性はあるじゃん? じゃあ彼氏が欲しいのかとか、余計な気を遣わすのも嫌だしさ――――…… ほら、四ノ宮みたいに、余計な心配かけけるのも、ほんとは嫌なんだよね。 お前には、見られちゃったから、どうしようもなかったけどさ」 「――――……」 「ごめんな、オレが迂闊だったから……嫌なとこ見せてさ。色々心配させたりしてさ」  ――――……心配、なのか。オレのって。 「……四ノ宮もさ、忘れろとは言えないけど…… そこまでオレの心配、してくれなくて大丈夫だよ? 今まで1人で普通にしてきたしさ」  1人て大丈夫。心配しないで。  そう言って笑うけど。  ――――……頑なに恋人は要らないって言って。  傷ついてんのを隠して、1回限りが楽でいいって自分にも嘘ついて。  全然大丈夫になんて、見えないのに。  ――――……でもやっぱり。これも言っちゃいけないんだろうか。  あー。  ――――……なんか。めんどくせえな……。  せっかく裏も表も関係なく、好きに話せるかもと思ったのに。  この件に関しては、飲み込むしか、ないとか。 「……オレは……」 「ん?」 「――――……あの日、見て良かったですけど」 「……良かったって事はなくない?」 「……あれがあったから、先輩と話せてるし」  そう言ったら、先輩は一瞬言葉を失ったみたいで。  それから、何だかすごく照れた顔をして。苦笑いを浮かべた。 「――――……まあ。……それはそう、かもな……」  と、そう言ってから。 「何、なんか急に少し可愛いんですけど、お前。……変なの」  ぷ、と笑いながらそんな事を言う。 「可愛いとか意味わかんないんでやめてください」  即座にそう返したら、ますます可笑しそうに笑う。 「何でそんな真顔で、可愛いを拒否んの。――――……ほんと変な奴」  先輩は、またまっすぐ月を見上げながら。  そんな風に言って、クスクス笑った。  

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