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第60話「先生の手伝い」*奏斗
四ノ宮と仲直りできたし。
順調に、火曜水曜と学校に行って、木曜の朝。椿先生に構内でばったり会った。あんまりゼミ以外で会わないので、立ち止まって、話していたら。
「ユキくん、ちょっと資料集め、手伝ってくれないかな?」
突然、そう言われた。
「資料集めですか?」
「そう。論文を書いてるんだけど。紙の資料が多すぎて、見つけるのが大変でさ。できたら、今日の放課後、2、3人で手伝ってくれるとありがたいんだけど」
「良いですよ、ゼミのグループに聞いてみますね。すぐ返事くると良いんですけど……ちょっと今連絡入れてみていいですか?」
「うん」
スマホを開いて、グループにメッセージを打ち込んでいた時だった。
「ああ、四ノ宮くん」
ん?
椿先生の声に、先生の視線の方を見ると。四ノ宮が歩いてきていた。
「ゼミ以外で先生に会うの初めてですね」
四ノ宮がクスクス笑いながらそう言ってる。
まあほんと。イイ笑顔だな。お前。
うさんくさいとか負の感情が無くなった状態で、普段の四ノ宮を見ると、まあなんか……見事だなあと思うようになってきた。
よくもそこまで王子を演じられるものだ。
……普段あんなに仏頂面するくせに。
とも思うけど。ぷ、と笑いそうになってると。
四ノ宮がオレを見て、何ですか、とにっこり笑う。
……目が笑ってないぞ、お前。
何考えてたかバレる筈はないけど。 なんかいつも見透かされそうな気もするし。
「あ。四ノ宮くんさ、今日放課後空いてるかい?」
「今日ですか?」
「うん。ちょっと論文の資料探しを、手伝ってくれる人を探してて。ユキくんは手伝ってくれるっていうから、あと1人2人、今から連絡してもらおうとしてたんだけど……」
先生がそう言ったら。
四ノ宮は、「オレやりましょうか?」と、あっさり言った。
「ああ、本当に?」
「良いですよ。先輩と2人で足りますか?」
「ユキくんと四ノ宮くんなら、大丈夫そうだね。ユキくん、もう連絡入れちゃった?」
「まだですけど」
「じゃあ良いよ。皆がたくさん来たいって言っても困るし」
冗談ぽく笑って先生が言うので、そうですね、と笑って答える。
「何限まで?」
「オレ今日4限です」
そう答えたら、四ノ宮も「オレも4です」と言う。
「じゃあ4限が終わったら、部屋に来てくれる?」
「分かりました」
オレが頷くと、四ノ宮は、あ、と思い出したように。
「オレ、4限の教授が少し長くなること多いので――――……少し遅れるかもしれないです」
「ああ、良いよ。終わったら来てくれれば。じゃあ後で。よろしくね」
椿先生がにっこり微笑んで、立ち去る。
――――……うーん、ほんとイケメンな先生だ。
絵になるんだよなー。
なんて考えていたら。
隣の四ノ宮の視線に気づいた。
そういえば四ノ宮と会うのは、月曜に会って以来。
「元気だった?」
「月曜会いましたよね」
「2日経ってるからさ。にしても、オレ達って、ほんと、マンション付近では会わないよな?」
「まあ一度も会ってないんですから、完全に時間がずれてるんじゃないですか?」
「んー、オレ時間ギリギリにくるからかな?」
「あー。オレは早めに出ます」
「……帰りも、喋ってて時間通りには帰んないし」
「まあそれはオレもありますし、用事もあるし。帰りはもう、バラバラすぎて会わないんですかね……」
「ある意味、すごいよな、会わないの」
「そうですね」
四ノ宮に苦笑いされて、ふ、と息を付いて。
「とりあえず4限終わったら先行ってる」
「分かりました。……あ。先輩」
離れようとしたのを止められて。
「ん?」
見上げたら。
「先輩って、椿先生って、好みですか?」
「――――……はあああああ??」
しばし沈黙の後。
「あの、さあ……」
「……はい」
「――――……超イケメンで、若いのに準教授で、頭良くて、声も良くて、背も高いし、完璧な人だなーと、思うけど」
「――――……」
「……身近なところで、好みとか、そういう意味では、見ないっつーの。そろそろ殴るよ?」
最後、ちょっと睨みながら言ったら、四ノ宮は、ふーん、と笑う。
「なんかじっと見送ってるから。好きなのかと思って」
「……そりゃ尊敬してるし、好きだけどさ。違うから」
「オレが行ったら邪魔なのかなって思ったんですけど、じゃあ大丈夫ですね?」
「……お前さぁ……ほんと、蹴るよ?」
四ノ宮は、オレのそのセリフに、ぷっと笑って。
「じゃあまた後で、先輩」
「――――……うん。じゃーな」
ふ、と笑んだ四ノ宮に手を振って、歩き去って行く後ろ姿を見送る。
もうあいつ、なんか、オレをからかってばっかりなような。
もう。なんなんだ。
むーーーと、息を付きながらも。
なんかおかしくて。
また少し、顔が綻んだ。
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