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第62話「変」*大翔

 月曜に課題をやって、でっかい月を見ながら一緒に帰って。  火曜水曜、先輩には会わなかった。  木曜の午後だし、もう会うのは明日のゼミかな。そう思っていたら。  椿先生と話している雪谷先輩を見かけた。  ――――……楽しそうだよな。  ……あの笑顔の下に、色んなもの、抱えて。  ――――……元カレを思うだけで震えたり……混乱したり、その他諸々するようにはとても見えない笑顔で、先生と笑っている。 「ああ、四ノ宮くん」  先輩はスマホを見ていて。先生がオレに気付いて呼びかけた。  先生と話していると、先輩はオレの顔をじっと見て。  ……なんかちょっと笑おうとしてる?  ちら、と視線を流すと。少しだけ、あ、と気まずそうな顔。  何ですか、と意味を込めてにっこり笑ってみせると、ちょっと苦笑いを見せてくるし。  何なんだ。  そう思っていると、椿先生に。   「あ。四ノ宮くんさ、今日放課後空いてるかい?」 「今日ですか?」  明日のゼミに関係なく今日? 珍しいな。と思いながら返すと。   「うん。ちょっと論文の資料探しを、手伝ってくれる人を探してて。ユキくんは手伝ってくれるっていうから、あと1人2人、今から連絡してもらおうとしてたんだけど……」  ――――……先輩もやんのか。  そう聞いて。「オレやりましょうか?」と、すぐに言うと。  先輩が、ふ、とまたオレを見上げてる。 「ああ、本当に?」  先生が笑顔になる。  ――――……この先生。すげえイケメンなんだよな。  理知的というか。ものすごく頭の良さそうな――――……というか、良いのか。この若さで准教授だもんな。  話し方も分かりやすいし、説得力もあるし。  ――――……女子とかは、本気で憧れてる奴もいるらしく。  過去振った女は履いて捨てる程居るとか居ないとか。  ……まあ、居るだろうな。  と、思わせる、このモテそうな雰囲気。  一瞬で、その笑顔に対して色々考えて。 「良いですよ。先輩と2人で足りますか?」 「ユキくんと四ノ宮くんなら、大丈夫そうだね。ユキくん、もう連絡入れちゃった?」 「まだですけど」 「じゃあ良いよ。皆がたくさん来たいって言っても困るし」  先生が冗談ぽく笑うと、先輩も、ふふ、と笑ってる。 「何限まで?」 「オレ今日4限です」  先生の問いに、先輩がそう答えるので、「オレも4です」と言った。 「じゃあ4限が終わったら、部屋に来てくれる?」 「分かりました」  先輩が頷いて、オレも同じように頷きかけて、あ、と思い出した。 「オレ、4限の教授が少し長くなること多いので――――……少し遅れるかもしれないです」  いつもは多少遅れても、後は帰るだけなので全然気にしてないのだが。  かなりの確率で延びてる気がする。その教室での次の授業がないから急がないのかもしれないが。  雑談的な感じでもあるので、次の授業がある奴らが立ち上がり始めると、教授の話が終わったりする。 「ああ、良いよ。終わったら来てくれれば。じゃあ後で。よろしくね」  椿先生が、まあ見事な感じに微笑んで、立ち去って行った。  ちら、と先輩を見下ろすと。  ――――……なんか、椿先生の事を見送ってる、ような気がする。  先生を見送り終えたのか、ふ、とオレの視線に気づいて見上げてくる。  全然普段会わないなぁ、なんて話になって。  まあ。入学して今まで、全く会わなかったんだ。  気づいたからって、頻繁に会うようになったら、おかしいよな。  なんて思いながら話していたら。 「とりあえず4限終わったら先行ってる」  先輩がそう言って離れようとした時。  思わず呼び止めた。 「ん?」  オレの言葉を待って、見上げてくる先輩に。 「先輩って、椿先生って、好みですか?」  イケメンだし。頭良いし。入りたかった憧れのゼミの先生だもんな。  しかも、あの先生。――――……多分、この人の事、結構可愛がってる。 「――――……はあああああ??」  沈黙の後、先輩は、ものすごく嫌そうにそう言った。  ――――……何だか、その、ものすごく嫌そうな返しに、少しほっとする。 「あの、さあ……」 「……はい」 「――――……超イケメンで、若いのに準教授で、頭良くて、声も良くて、背も高いし、完璧な人だなーと、思うけど」 「――――……」  ムカ。  すげえ褒めるし。前半部分はオレも思ってたけど。  ――――……声も良くて? 完璧?  やっぱり好みなんじゃねえの。  と思っていたら。 「……身近なところで、好みとか、そういう意味では、見ないっつーの。そろそろ殴るよ?」  最後の方は、少し睨まれる。  ――――……ふーん、と返事をしながら。 「なんかじっと見送ってるから。好きなのかと思って」  はっきり突っ込んでみたら。 「……そりゃ尊敬してるし、好きだけどさ。違うから」  疲れたように言うから。  ――――……まあ。そうなのかな、とも思って。 「オレが行ったら邪魔なのかなって思ったんですけど、じゃあ大丈夫ですね?」  最終確認をしてみたら。 「……お前さぁ……ほんと、蹴るよ?」  めちゃくちゃ嫌そうに言うので、じゃあその気はねえのかなと思って。  そう思ったら、自然と、ぷっと笑っていた。 「じゃあまた後で、先輩」 「――――……うん。じゃーな」  先輩と離れて、しばらくして振り返ると。  ――――……多分今までこっちを向いてた先輩が、ちょうど、方向を変える所だった。  あの人、ああやって人を見送る人なのかな。  ――――……さっき、先生もやってたけど。  オレの事も見送るんだなと思うと。  ――――……ちょっと、落ち着いたような。  …………変な感じ。 後書き ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 昨日、新作ランキングの1位にして頂いて。 ありがとうございました♡ お礼に、短い会話劇?を、昨日ブログにのせてます♡ よろしければ♡ (2022/1/5) by悠里

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