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第66話「ちょっと楽しい」*奏斗
――――……は。終わった。
オレが読んでいたのも、四ノ宮が全部持って行ってくれたので、オレは、自分が最後に読んだ資料を持って先生にの側に寄って、差し出した。
「これで最後です」
「ありがとう。助かったよ。2人、夕飯はどうするの?」
資料を受け取りながら先生が言うので、後ろの四ノ宮を振り返りながら。
「この後食べに行こうかと思ってて」
そう言うと、先生は、そっか、と笑んだ。
「一緒に行って好きな物食べさせてあげたいけど、まだやる事がたくさんあるから、とりあえず――――……これで食べて?」
そう言われて、財布から5000円札を差し出されてしまった。
「え、少し手伝っただけなので、いいですよ」
「そう言わないで、バイトだったと思って。2人で3時間以上。安い位だよ」
「――――……」
どうしようかなと思っていると、四ノ宮もちょっと困ったような顔をしていたのだけれど。結局先生の好意を受け取ることにして。2人で、ありがとうございますと受け取った。
「このお金の件は、他の子には内緒で。これ目当てで来られても困るから」
「はい」
先生の笑顔に、笑って返してから、オレは自分の鞄を手に取った。
「じゃあ先生、また明日のゼミで」
「ごちそうさまです」
オレと四ノ宮が言うと、先生は、「助かったよ」と言って笑う。
軽く会釈しながら、先生の部屋を出て。
「5000円、持ってるね。あとでこれで払おう」
「――――……そうですね」
2人で並んで歩きながら、建物を出る。
「目ぇ、疲れたなー……」
「ですね」
「――――……早く食べて帰って、休も」
オレがそう言うと、四ノ宮は少し黙ってから。
「……疲れてます?」
「え、疲れたでしょ? 固まってたから、肩と目がやられてる。風呂入って、温まりたい」
んー、と腕を伸ばしてから、肩を回した。
「シャワーじゃないんですか?」
「いつもはシャワーだよ。でもなんか、今日は解したい」
「ああ。なるほど」
四ノ宮は頷いて。
それからオレを、ふと見下ろした。
「オレん家で食べます?」
「え?」
「このまま帰って、オレんちで食べますか?」
「……ていうか、何食べんの?」
「何か作りますよ」
「え」
……ますますよく分からない。
ああでも、なんか、オシャレな感じの朝ごはん食ったって言ってたような……。料理する奴なのかな。
「四ノ宮、作れんの?」
「何か食べたいもの言ってみてください」
「んー……ペペロンチーノは?」
「パスタでいいですか?」
「うん。さっきからちょっとイタリアン気分だったんだよね」
「それならすぐ作れるんで、家にしましょ。オレ作っとくんで、先輩、風呂入ってきていーですよ。食べたら、すぐ帰って寝たら?」
「え。そんなの、いいの? じゃあさっきの5000円あげるね」
「つか、パスタにそんなかかんねーし」
く、と笑われて。
「だってこれで食べろって言われたしさ」
「別に要らないですよ。先輩持ってたら?」
「えー。じゃあ、今度何か、一緒に食べよーぜ」
「何かって?」
「だって隣だし。一緒に食べよってまたきっとあるだろ。そん時使お」
そう言うと。
何か四ノ宮、ふ、と微笑んだ。――――……ように見えた。
作り笑いが剥がれたら。
なんかちょっと小馬鹿にしてるみたいな笑いとか。
――――……皮肉っぽかったり、苦笑いだったり。そんな感じだったけど。
今、なんかちゃんと笑ったなあ……。
そーやって笑ってれば、可愛い後輩なのになあ。
――――……オレのこと。
嫌いなのかなーとか思ったけど。
家で食べようとか言う位だから。
まあそうじゃないのかなーなんて思いながら。
四ノ宮に、肉とか、何入れますか?なんて聞かれて。
思うように話しながら、並んで歩くのは、なんだかちょっと、ほのぼのして。
ちょっと楽しい気がする。
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