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第82話「声が」*奏斗

 え。何。  腕、振りほどきたいんだけど、なんか刺激もしたくなくて、ただ固まる。 「やっと会えたんだしさ。連絡先、教えてよ」 「――――……オレ、こういうの、その場限りにしてる、ので……」  なんか、ちょっと、怖いし。  これどうしようかな……と思った時だった。  トイレのドアが開いて、さっきの2人の内、最初に声かけてきた1人がトイレに入ってきた。  瞬間、男の手は離れた。 「あ、居た。何してんの? 遅いじゃん」 「――――……」 「一緒に話そうよって言ったのにさ、全然来ないから大丈夫かなって思って」  迎えに来たそいつは、トイレに居た男にちらっと視線を流しながら、「戻ろうよ」と、オレの腕を引いた。  男が少し気になったけど――――……少し頭を下げて離れた。とりあえず、ここから出れるならと思って、ついて歩く。  トイレを出て少しして振り返るけど、出てくる気配はなかった。  追いかけてきたらやだなと思ったから、ほっとする。そこで、掴まれていた手を離した。 「もう平気。ありがと」 「知り合いの人?」 「あ、……まあ、すこし……」 「つきまとわれてんの?」 「……いや、大丈夫だと思う」    でも――――……ちょっと怖かったな。  ……四ノ宮には内緒だな。  ……2度とここに来させてもらえなくなるような気がする……。 「……でも、迎え来てくれて助かったかも。ありがと」 「うん、いーよ」  一緒にさっきの所に戻ると、もう1人も待っていた。  飲み物を差し出される。 「オレこれ飲んだら帰るけど、いい……?」 「もちろん、いいよ」  何となく、カチンとグラスを合わせて、オレはジンジャーエールを口にした。なんか結構炭酸きつい。と思って、一口飲んで、テーブルに置く。 「飲まないの?」 「……なんかこれ炭酸きつくない?」 「そう? こんなもんじゃない? せっかくなんだから、飲んでよ」  そう言われて、仕方なく、もう少し飲むけど。  ――――……そういえばジンジャーエールって普段あんまり飲まないから、よく分かんないけど……こんなもんなのかなあ…。 「なあ、名前なんて言うの?」 「……ユキ」 「ユキかあ。可愛い、ピッタリだね」 「そう?」 「大学生?」 「うん」 「どこ?」 「……内緒」  あんまり聞き出されるのは嫌なので、段々面倒になってくるのだけれど。  さっき助けてもらった手前、なんか、そこまで邪険にも出来ず。  もうこれ、早く飲んじゃって、四ノ宮に電話して――――……。  適当に会話に付き合いながら。  ――――……さっきの、人、どうしたかなあ、帰ったか……他に相手、見つけてくれてたらいいけど。なんか、そっちも気になってしまうし。四ノ宮も気になるし。  ……とりあえず、早くここを、出よう。 「――――……」  スマホをポケットから出して、四ノ宮の画面を開く。  と同時に、ふわ、と欠伸が漏れた。  ――――……なんか急に、眠くなってきたような。  首を傾げつつ、また零れた欠伸を噛みしめる。 「ユキくん、眠いの?」 「え? あ――――……なんか急に。でも大丈夫……」  言いながら、また欠伸。  何だろう、これ。立ってて、こんな所でこんな急に眠いって。  スマホを見ると、もう22時をとっくに過ぎてた。  少し遅いからかなぁ……。  ――――……四ノ宮が二次会の後、誰かと過ごすなら、  早く電話しないと、ホテルとかついたら、出てくれないかもしんないよな……。 「ちょっと電話してくる……」 「どーぞ。てか、ここ、電話聞こえる?」 「……うん、多分」  言いながら、四ノ宮を呼び出す。  出なくてもしょうがないけど――――…… 出てくんないかなあ……。  3回目のコール音で。  繋がった。  こっちも音楽掛かってるけど、向こうからも、違う音楽がかかってる。  まだ二次会の店に居るっぽいな……。 「四ノ宮……?」  何だか怒られてもいいから、すごく、声が聞きたいなと思って。  そう、呼びかけてみた。 (2022/2/9) ◇ ◇ ◇ ◇ さあて……♡ 明日に続きますっε≡≡ヘ(∩´∀`)

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