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第84話「良かった」*大翔

 やっとクラブについて、入り口で代金を払って、中に入る。  さっき、先輩と話している途中で、急にすごい音がして。  スマホを落としたのかと思ったら、先輩の声で、電話返して、と聞こえた。  そのすぐ後に、眠剤がどーのという声がして、先輩の声がしなくなった。  即電話を切って、クラブに掛け直して、リクさんという人を出してもらった。ユキとかそういう名前の奴を知ってるか聞いたら。今日来てたけど、すぐ帰るって言ってたよ、なんて言うので、変な奴に連れていかれるかもしれないから、と頼んで、電話を繋げたまま、探してもらった。  案の定。連れて行かれそうになってた先輩を、見つけてくれて。  店のボディガード達と追い払って、先輩を捕まえといてもらえることにはなった。  それでも、薬がとか言ってたし心配だし――――……すげえ腹も立つけど。  人を避けて急いで店の奥まで進み、アルコールのカウンターの所にたどり着いた。 「あの、すみません」 「……あ、もしかして、さっきの電話の子かな?」  スラッとした長身の、すごく落ち着いたイメージの人で。  電話で落ち着いて対応してくれた声のイメージと重なって、ぴったり合致した。 「リクさんですか?」 「そう。ユキくん、ここ」  指差されたカウンターの向こう側を覗くと、  少し大きめの椅子に、先輩が座ってぐったり沈んでいた。 「いいよ、そこから入ってきて」    カウンターの中側に入って、先輩の側に膝をついた。反応なし。   「……寝てるんですか?」 「んー、すごくぼーっとしてる。君が来るまで待っててって、伝えてあるんだけど」  リクさんは、苦笑い。 「でもさっきから動かないから、寝てるのかも……」 「――――……先輩? 分かりますか?」 「――――……ん……」  ものすごいぼーっと、している。  腕を掴んで、オレの方を向かせる。 「分かります? 迎え、来ましたよ」 「――――…………しの、みや……」 「大丈夫? 気分は?」 「……うん。すごく、悪い……」  返って来た答えに、眉を顰めてしまう。 「つか、悪いのかよ……もう、ほんとに――――……」  ため息と共に言いながら。  でも、とりあえず良かった。  どこにも連れていかれないで、ここに、居てくれて。  リクさん、という名前を呼んでから、電話が切れてほんとに良かった。  名前が分からなかったらもしかしたら、間に合わなかったかも。  何か、顔赤いし。 「……にしてンだよ、もう――――……」  思わず呟くと。  リクさんが苦笑しながら、オレを見た。 「ユキくんが喧嘩しちゃった後輩って、君?」 「……喧嘩? ……ああ。まあ、そうかもしれないです……」 「その事で、なんか全然楽しめてなさそうで、今日はこのまま帰るって言ってたからさ。今日は、オレもユキくんの事、見てなかったんだよね。それに普段は、ユキくん、すごく気を付けてると思うんだけど……」 「――――……」  そっと差し出された何かを受け取る。 「――――……?」  薬の、ゴミ? 「アルコールと媚薬みたいな薬、飲まされたらしい。これがその薬のケースね」 「……媚薬?」 「多分今きいてんのはアルコールかな……飲んだことないんでしょ、ユキくん」 「酒は飲んでないって言ってましたけど」 「ジンジャーエールのお酒、飲んだこと無くて分からなかったのかも。2人組だったから、見てない間にすり替えられちゃったのかなーと思う」 「――――……」 「あいつらは出禁にしたからってユキくんに伝えといて」 「はい。……連れて帰りますね」 「ん。――――……あのさ」 「はい?」 「……この媚薬、多分発散しないと収まんないから…… 君が大丈夫なら手伝ってあげるのがいいと思うんだけど」 「は?――――……絶対無理です」 「――――……」  リクさんのとんでもない発言に即断ると。  ぷ、とリクさんは笑った。 「じゃあ、オレが引き取ろうか? 別に変な意味なく、助けてあげるけど」 「……は?」  何この人。渡す訳ねえだろ。  感謝も忘れて、思わず睨んでしまうと。 「――――……でもオレには渡したく無いわけね。……君って、分かりやすいのか、分かりにくいのか……よく分かんないね」  クスクス笑われる。 (2022/2/11) 昨日、 作品紹介のタグを眺めて、想像しておいて頂けたら(;'∀') と書いたんですけど……。 3サイト投稿してるけど、ちょっとずつ違ってたので、 大体合わせてあります(笑)  ドSエッチ、とか♡ その内溺愛、とか。そこらへんを何となく。 頭の端っこに……(*´ω`)♡

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