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第85話「まさか」

 それから、リクさんは、ふ、と笑った。 「まあユキくんも、完全否定してたけどね」 「……何をですか?」 「後輩くんは、君のことが好きなんじゃないのって、聞いたら。無いですって即答してた」  クスクス笑われて、まあ。そうなんだけど、思いながら。  何かが胸を掠めるけれど。 「あのさ、ユキくん、歩けないし、多分タクシーとかもきついと思う。ここのすぐ後ろに、男同士でもいけるホテルあるよ。その方がユキくんにはいいと思うけど」 「――――……」  この状態の、この人と、ラブホ……。  なんか、すげえ、嫌なんだけど。  その方がいいのは何となく分かるんだけど、  何だか頷きたくない。 「別にその気がないなら、ホテルで過ごしたって一緒でしょ? どうせ今夜、1人になんてできないでしょ」 「――――……」  そうか。どうせ放っておくことが出来ないなら。  居場所はどこでも変わんねえか。  ……媚薬効いてどうなるかはしらねえけど……タクシーとかも嫌だし。 「裏口から出ればホテル目の前だよ。そっちから出る?」  つかでも、やっぱり、嫌だ。  こんな先輩と、そういうことする部屋に2人とか。  何でかよく分かんねえけど、すげー嫌だ。 「――――……ん……」  少し唸って、先輩が身じろぎして。  すごくだるそうで。  オレは、ものすごいため息を付いてから。 「……はい。お願いします」  仕方なく頷いた。  リクさんは、何だか苦笑してから頷いた。 「あのさ、後輩くん」 「……はい?」 「――――……何の意図もないなら、助けてあげなよ。別に本番しろって言ってる訳じゃないよ、触るだけ。こんなにぐったりしてたら、自分ではできないだろうし。可哀想だから」 「……だから無」 「無理なのは、何か感情があるから?」 「――――……」 「むしろオレは、全然できるけど。ユキくんはイイ子だし、危ない目に遭わせたくないから、いつも絡んでるけど。そんな意味ないから、今非常事態だし、全然平気だけど」  無理、を遮られて言われた言葉に、何故か何も言い返せなくて。 「……まあ、ユキくんが自分で出来るなら良いけど。飲み物も全部は飲んでなかったから、どの程度効くか分かんないし。様子見だけど、苦しそうだったら。――――……君ができないなら、電話でオレを呼んでくれてもいいよ。朝まで店の予定だけど、少し位抜けられるから」 「――――……」  ……それだけは絶対ねえけど。  そう思っていると、リクさんがぷ、と笑った。 「絶対呼ばないって思ってるよね?」 「――――……」 「はは。面白いなぁ。――――……まあ、いいや。裏口、案内するよ」  言われて、先輩の脇から肩を入れて、何とか立たせる。  おぶった状態でラブホとか、怪しまれそうだから、絶対無理。 「先輩、部屋入るまで、頑張って立ってて」 「……ぅん……」  かろうじて返事をするけど、目は開いてない。  裏口から出て、目の前のホテルを見上げる。  今からここ、入ると思うと。  ため息をつきたい気分に陥るが。 「リクさん。本当にありがとうございました。助けてくれて」 「うん、こちらこそ、電話くれて良かった。店的にもあんなの、ほんと迷惑だしね。後輩くんは名前、何て言うの?」 「四ノ宮です」 「四ノ宮くんね。 またユキくんと来てよ」 「――――……」  一緒にとなると色々複雑なので、とりあえず、頷いて置いた。  リクさんと別れて、ラブホの受付を済ませて。  ため息を付きながら、部屋を開けて中に入る。  ――――……まさか、この人と、こんなとこ、入ることになるとは。  ため息しか、出てこない。  

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