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第86話「最悪」*大翔

 延々ため息をつきたい気分を、抑えながら、部屋の中に進む。 「……先輩?」 「……ん……?」  肩から先輩の腕を外して、ベッドに座らせた。 「……寝ますか?」 「――――……うん……」  だるくてたまらない、と言った感じで頷いて、先輩は、ぱたん、とベッドに倒れて、横になった。  そのまま、すう、と眠り始める。 「――――……」  媚薬、ていうより、アルコールの方を摂取したってことなのか……?  飲み物残してたって言ってたし、飲んだ部分に、媚薬は溶けないで下の方にたまって残ってたとか?  それなら、助かる。  寝れば治るなら、それに越したことはねえな。  ため息を付きながら、冷蔵庫から水を取り出す。  蓋を開けて、流し込む。  ――――……あんなに走ったの、久々。  2次会の会場から、電車に乗って、クラブまで。  ――――……特に、リクさんが先輩を捕まえてくれるまでは。  ほんとに、気が気じゃなかった。  1次会の店で、あんな感じで怒らせたまま別れて。  上の空で返事をしていたら、2次会に参加する事になってしまっていて。  行きたくもない2次会に、でももうどうでもいいやと参加して、適当に話して、やたら絡んでくる女と、もうどうでもいいから一晩過ごすかと、そんな感じになっていた時に、先輩からの電話。  今更なんだよ、と思って、出るのを一瞬躊躇ったけど。  結局、出て。 「……四ノ宮、気になって。――――……なんか、もう全然、探してない」  このセリフで。完全にもう許してて。どこかで待ち合せようと思ったあたりで、異変に気付いた。 「――――……」  良かった。無事で。  ……完全に無事って訳じゃなさそうだけど……。  でもこの程度なら、危なかった、という話で済ませられる。  ――――……でも、かなり反省させるからな。覚悟しとけよな。  眠っている先輩を立ったまま見下ろして。  ふと、息をつく。  ほんとは、水を飲ませたいけど……。  あとで、目ぇ覚めたら、飲ませるか。  布団を先輩にかけて、寝顔を見ていると、改めてほっと息を付いてしまう。  先輩の足元に、腰かける。  しばらくそのまま、先輩を見ていたのだけれど。  全然動かず、眠り続けている。  シャワー浴びちまおうかな……。  どうせ泊まるんだろうし。とりあえず今は、起きなそうだし。  立ち上がって、水のペットボトルをテーブルに置いて、バスルームに向かった。本当にざっと洗って、流して、一度、バスローブを着て。  ――――……何となく、服に着替え直した。  そんなような事するつもりは一切ないけど。  何となく、先輩と居る、こんな場所で、バスローブとか。  無いなと、思って。  ほんと――――……なんかよくわかんねえけど。  ……なんか、気分は、最悪。

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