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第87話「ため息しか」*大翔

 バスルームから出ると。先輩が、ベッドの上で、起き上がっていた。 「あれ――――……起きました? 水飲みますか?」  返事はないけれど、冷蔵庫から水を出して、ベッドに近付く。 「とりあえず、水飲んで」 「――――……」  キャップを外して、渡す。  一口だけ飲んですぐ戻された。 「先輩……? 気分悪い?」 「――――……なんか……熱い……」  俯いてた先輩が、額を押さえながら、言う。 「……熱い?」 「…………ん……」  はあ、と、息を吐く。  シャツのボタンを外し始めて。首元、開けてる。 「……なんか、変……」 「――――……」  媚薬、か……。  即効性じゃないっつーことかよ……。  ため息しか出てこない。 「……先輩、バスルーム、来て」  腕を掴んで、先輩をバスルームに連れて行き、服を脱がせる。 「先輩、変な薬飲んだんですよ」 「……くすり……? ……っ……」   体に触れると、異様な位、びくつくのが――――……やたらエロく見えるけど。これは仕方ない。今、そういう状態になってるだけだ。  そう言い聞かせながら、あまり見ないようにして全部脱がせると、シャワーを出して、先輩をバスルームに入れる。 「好きなだけ触って、出してきていいよ。できますか?」 「……ん」  ……ほとんど、目、開いてないんだよな……。  ――――……でもだからと言って、手伝うとか、やっぱり無理だ。 「先輩、自分で、できますよね?」 「……ん……」  頷いた先輩がシャワーの下で、バスタブの縁に寄りかかって、座る。  座ったのを見届けてから。オレは、バスルームを出て、戸を閉めた。  スマホを取りに行き、バスルームの前に戻る。  大丈夫かと、様子をうかがうと。 「……っ、ふ……」  声が、少しだけ漏れてくる。  ――――……触り始めたか……。  まあでも発散すればよくなるとは言ってたから……。  脱衣所から出て、声が聞こえないギリギリの近くに、椅子を引いてきて、座る。倒れられても困るし。  先輩、全然こっちも見ねえし、オレの名前も呼ばない。  分かってないのかも。  ……くっそ。ぶん殴ってやりたい、あんなもの、飲ませやがった奴ら。  ものすごく顔をしかめながら、オレは、さっきリクさんからもらった薬のゴミを裏表、写真に撮った。  スマホを操作してその写真を送信してから、発信ボタンを押す。呼び出し音が2回。 『はい。葛城です』 「オレ」 『大翔さん、こんな時間にどうしました?』 「今、葛城宛に、薬のケースの写真、送った」 『薬ですか?』 「……媚薬とか、変な薬っぽいんだけど…… この薬、飲んでも平気な物か、調べてくれ。この薬に関わる詳しい事、全部送って」 『分かりました――――……あ、大翔さんが飲んだんじゃないですよね?』 「ああ。オレじゃない」 『分かりました。すぐ調べて、折り返します』  電話が切れた。  ネットで調べるより、葛城のがこういうのは正確。  ――――……少し待つ間。  バスルームの先輩が、大丈夫なのか、気になってしょうがない。  だからと言って見に行くわけにも、いかない状況だし。  吐いてるとかなら側に居てやれんのに。  本当に、ため息しか出ない。

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