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第88話「ほんと嫌」*大翔

   少しだけバスルームに近づくと、声が聞こえてきた。 「……は……なに…… これ――――…… ……」  気持ち良いというよりは――――……辛そう。  さっきは見ないようにしたけど。触ってもないのに、勃ってたし。  服を脱がせるから少し触るだけなのに、全身、びくついて。  あんなエロイ感じで、男2人に、なんて事にならなくて。  ……マジで、良かったけど。  リクさんの、やってあげるから呼んで、なんていうふざけたセリフが一瞬浮かぶ。  でも一瞬でそれは、無しと判断してる、自分。  ――――……その後浮かぶのは、何の意味もないなら、処理するだけならできるだろうという意味の言葉。  何の意味もないなら。  処理するだけ。なら。  ――――……つか。  ……無理だろ。  ため息しか出ない。  なんか。  ――――……この状況は、かなり、地獄。  媚薬って、どん位効果もつんだ?  さっき飲んで――――……今1時間位経ったのか?    その時、電話がかかってきた。葛城の名前。 「葛城? 分かった?」 『書いて送る程の内容ではないので、言いますね』 「あぁ」 「最近街で、若い連中に出回ってる媚薬です。そんなにひどい副作用もなく、割と安価で、効果が強め。アルコールと合わせて摂取すると効き目が高いそうで、よく使われているらしいです。効くまでに1時間、それから2~4時間位、持続します。ただ、使う人にもよるので、一般的にはという事です。一応報告されてる副作用は、頭痛、動悸、眩暈、倦怠感と息苦しさ、意識が朦朧とする人も時には居て、これがひどくて長引くようなら医者に行った方が良いです」 「……じゃあ、そういう症状が無ければ、最高4時間で、通常通りか?」 「はい。とりたてて、危険な薬物、といったものではありませんでした」 「――――……」  とりあえず、知りたかったのはそこだったので、良かったけど。  ……つか、全然良くはねえけど。 「助かった、葛城」 『……大翔さん。大丈夫ですか? 一応、事情を簡単にで良いから聞かせてください』 「知り合いが、これを飲まされて連れて行かれそうになったのを、ギリギリで助けた」 『そういうことですか……分かりました、じゃあ、薬が切れれば、問題はないですね?』 「ああ」 『もし、体調不良で病院に連れて行くのであれば、タクシーかもしくは最悪救急車で。 病院が分かったら、連絡をください。行きますから』 「分かった」 『ちなみに――――……お相手をされるんですか?』 「……しねえよ」 『もしかして、雪谷さんですか?』 「――――……そう」  ――――……何で分かるんだ。 『切羽詰まって居たし、女性なら相手してさしあげると思ったので……そうかなと』 「――――……別にオレ、あの人の事、そこまで話してないだろ」 『そうですけど――――…… 大翔さん、分かりやすいので』 「つか、オレを分かりやすいとか言うの、お前位――――……」  やめた。もう反論も疲れた。  途中で口を閉ざしてしまうと、葛城が、少し笑う。 「珍しいですね、言い切らないなんて」  ――――……あー、ほんと。  こいつ、時たま、すげー、嫌。

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