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第93話「そのかわり」*大翔
「……なか、熱い……」
そんな事を言って、きつそうに歪む顔。涙で潤みまくった瞳。
目を逸らそうとした瞬間、首に回っていた手に引き寄せられて。
「……キス、したい――――……」
「……っ」
――――……どんだけ、だよ。バカ野郎。
薬が無くても、こうやって――――……色んな奴と、ヤってきたんだよな。
相手なんか、別にオレじゃなくても。
かずき、以外は、誰でも一緒なんだろ。
何だか物凄く、ムカついて。
また、触れてきた唇に。
……守ろうとしてた、何かが、一瞬、途絶えた。
「――――……っ……」
先輩の後頭部に手を回して、より引き寄せて。
唇を合わせた。
触れてくる舌、そこで一瞬、躊躇うけれど。
絡めて――――……熱い舌を、奪った。
「……ん…… ふ……っ……」
キスされてるこの人を見て、感じる欲。
甘い、としか感じない声。
つか。
――――……これを、甘い、と感じてしまう自分。
そう思わないように、してきたのに。
誰かと寝るこの人がムカつくのも。
危ないから、心配だから、意味わかんないから。
そう思おうとしてきたのに。
どこかに行くのも仕方ない、危なくないと思えればいいなんて、クラブについてくなんて言ったりして。
それもこれも。
オレがかわりに抱いてやる訳にはいかないんだからと。
ずっと、思おうとしていた、から。
男に、そんな意味で執着してるなんて、思いたくなかったのに。
「――――……ちっくしょ……」
唇を離して、呟く。
今多分、おかしくなってるこの人を抱いて。
――――……これからどうなるっていうんだろう。
全然この先が、読めない。
こんな関係、本当は、持ちたくない。
バカみたいな事してる先輩を心配しながら、どうにかトラウマ克服させて、一夜限りなんかやめさせて――――……誰か、良い奴と、付き合う方向に持っていけたら、一番良かったのに。
こんな事がなければ、この人に欲情するとか。
ムカつくのが、独占欲だとか。
気づかないように、無理やりに押し込めたままで、いられたはずなのに。
「――――……」
――――……もう、思い知ってしまった。
今、目の前の、こんな姿。
……もう、誰にも、見せたくない。
「――――……っ……分かった。抱くから」
先輩の、頬に触れて。
片手で肩を押して、ゆっくり、ベッドに押し倒す。
大きめの枕に、背中から上、沈めさせた。
「……その代わり」
「――――……」
「もう、他の奴と、させないから」
どうでも良いような奴と、もう、やらせないからな。
分かってるんだか、いないんだか。
――――……分かっていないと思うけど、そう伝えて。
涙目で見上げてくる先輩に、深く、口づけた。
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