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第97話「まだ序盤…」*奏斗

「……けほ……」  あ。咳しちゃった。やば。四ノ宮起こしたくないのに。  ……でも、喉が枯れてる。  ――――……声出しすぎてたから……。  水、欲しい……。  けど、だるいし。四ノ宮起こしたくないし。  いやむしろ、永遠に会いたくないような……。  出来るなら、オレ、いますぐ消えたいし……。  思った時。  何やら腕が回ってきて、うまく抱き上げられてしまって。  びっくりしてる間に、オレは起き上がって座らされてて。 「先輩、ほら」  口に、蓋を外したペットボトルが当てられた。 「飲んで」 「……ん」  ごく、と飲んで、重い手を動かして、ペットボトルを受け取った。  ものすごく不本意なんだけど、四ノ宮が立てた膝に、背中寄っかかるような感じにされて。なんか。囲われてるみたいだけど。  もう今更な気がして、暴れる気も起きない……。……体も、だるいし。 「……目、ちゃんとさめました?」 「ん……起きてたの?」 「眠れなかったンで。――――……体調は?」 「……だるい」 「だるい以外は? 痛いとか、苦しいとか、気持ち悪いとか」 「――――……無い」  あれ。  なんか。  意外と、普通にやり取りできてる……?  今の今迄、心底、消えたかったけど。 「じゃあ薬の方はもう平気か……」  ふう、と四ノ宮が息をつく。 「……四ノ宮、あの……」 「はい?」 「――――……説明、して……?」  そう言うと。四ノ宮は、ん、と頷いて。  足で支えてるオレを、見下ろした。 「……寝転がって聞きますか?」 「ううん。いい」  今まで感じたことが無い位、だるいけど。  ちゃんとまっすぐ顔見て話したい。 「……クラブから電話くれたのは覚えてます?」 「うん」 「話した内容は?」  話した事……――――……あ、謝った。四ノ宮に。 「うん。覚えてると思う」 「どうやって切ったかは?」 「――――……スマホが、落ちて……あ、あの2人は?」 「スマホ落とした後は?」 「――――……あの2人がスマホ拾って……そこらへんから、覚えてない」  四ノ宮は、そうだろうなという顔で頷いた。 「先輩はそこらへんから、飲まされたアルコールと媚薬のせいで、寝てるんだか、ぼーっとしてるんだか、とにかくおかしくなってたんだと思います」 「……そうなんだ……え、あれ、ジンジャーエールじゃなかったの?」 「……はい」 「炭酸きついなーて思ったけど……」  そう言ったら、四ノ宮から、ちっと舌打ち。  怒ってる……とビクビク四ノ宮を見ると。 「酒かどうかもわかんねーって何なの。つか、自分で買ったもの飲んでたんじゃねえの?」 「……えーと…… あ、あの……目の前で店員さんから、ジンジャーエールを頼んで買ってくれたんだよ」 「……じゃあなんでそれが、入れ替わるんですか」  何でだっけ……。 「あ。分かった。オレ、トイレ行ったんだ」 「――――……っバカなの、先輩? 気を付けてるって言ったじゃんか。全然気を付けてねーし」  ものすごくイライラした口調で言われる。  …………まあ……そのせいで、多大なご迷惑をかけたと思われるので、もう、何も言い返す事もない。 「何でそんな、見もしらねえ奴から飲み物貰って、平気で飲んでんの?」 「……目の前で買われたしさ。確かに離れたから、普段なら飲まなかったかも、しれないんだけど……ていうか、トイレでちょっと迫られてたとこを、その2人の内の1人に助けてもらったから…… なんか、疑わなかったというか……飲んだらすぐ帰るつもりだったし……」 「……はい、ストップ」  なんか、もっと不愉快そうな声がして、そんな台詞。 「……すとっぷ?」  四ノ宮を見上げると。  なんかもう、すごーく眉が寄ってて。 「素通りできねーこと言った。何だって? トイレで?」 「――――……トイレで……あの……」  言わなきゃよかった……。  ――――……信じちゃった理由としてひっぱってきたんだけど、むしろこっちの方が、不機嫌になってる気が……。  嘘ついたりできる雰囲気と視線ではなく、仕方なく、本当の事を手早く言うとにする。 「……あの……前、関係持った人が居て、誘われて……断ったんだけど、腕掴まれて、連絡先聞かれてて……」 「――――……あんた、変な人とは、やらねーとか言ってなかったっけ」  うう。その通りなんですが……。 「……前回の時は別に……何もなかったんだよ。でもなんか…… 良かったからもう一度会いたかったとか言われて……」 「それで断ってんのに、腕掴まれて連絡先聞いてくるとか、十分、変な奴ですけどね」 「そう、なんだけど……」  ……うう。すごい不機嫌。四ノ宮。  これまだ話の序盤で、オレが聞きたいのは、もっと後ろの方の事なんだけど……。  やっぱり消えたくなってきた……。  ううううーーー。

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