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第103話「事故だと…」*奏斗
シャワーを浴びて、服を着て。ドライヤーをもった所で、四ノ宮が入って来た。
「歯、磨きたい」
「あぁ、うん……」
少し洗面台の前から退くと、四ノ宮は歯磨き粉を付けて歯ブラシをくわえた。オレは、洗面台のコンセントに、ドライヤーのコードを挿しこんだ。
「先輩、このバスルーム、覚えてます?」
「……んー……全然何もはっきり覚えてない……」
「まあ、そうでしょうね……」
「……オレここからベッドまでって」
「抱きあげましたけど」
「……ほんとごめん」
「――――……別に。そっちは、なんでもないですよ」
言ったきり、しゃこしゃこ歯磨き。
オレも、ドライヤーのスイッチを入れて、髪を乾かし始めた。
……そっちは、って。
じゃあ、どっち、は。 何でもなくないんだろう。
――――……オレが、迫った(らしい)こと?
まったく覚えてないけど。
マジで思い出したくないけど。
……もう昨日のは――――……事故だと思おう。
……大事故だけど。再起不能並みの大事故だけど……。
四ノ宮は、本当に変なこと言ってて。
……オレが外に行くなら、抱く??
恋人が、出来るまで??
――――……恋人が出来るならいいって事はさ。
四ノ宮は別にオレの事を好きだから言ってるんじゃないよな。
……好きって言われたい訳じゃないけど。
好きじゃない、先輩の男を、ゲイじゃない奴が……
心配だから抱くって――――……。
どういう事……? そんなことってある?? 無いよね。うん、無い無い。
もはや、宇宙人のブラックさんの考えてる事は、オレには分からないと、諦めないといけない所、なのかなあ? もう、そんな気がしてきた。
理解できる日が来ると、思えないんだけど。
四ノ宮が歯を磨き終わって、口を漱いで、タオルで拭いてから。
こっちに不意に手を伸ばされて、びく!と震えたら。
「――――……」
びっくりした顔で、四ノ宮はオレを見つめて。
それから、ふ、と苦笑い。
ドライヤーを奪われて、風を強にして、オレにあてる。
「そんな弱い風でいくらやってても乾かねえから」
言いながら、オレの髪に触れながら乾かしてくれる。
――――……少し俯いて、四ノ宮のなすが儘、させながら。
……手が伸びてきた時、めちゃくちゃドキッとして。
心臓がめっちゃくちゃ縮んだ。……寿命、半分くらい縮んだ気がする。
またキスされるのかと。思ったとか。
絶対言えないけど。
――――……四ノ宮の、びっくりからの苦笑い。
なんか、色々見透かされてそうな。
ほんと、やな感じ。
もう。
――――……ほんと、やだ。
……もとはと言えば、さっき、あんなにキスするからじゃんか!
オレ、やだって言ってんのに!
なんか恥ずかしさと、よく分かんない怒りと、文句で、心の中一杯になりすぎてて、ほんとならドライヤーなんか自分でやるのに、動けなかった。
――――……でもその内、はた、と気付く。
もう20才目前なのに、後輩の男に髪乾かしてもらうって、何。
「四ノ宮、オレ自分でやる」
「は? 今更じゃねえ? 後少しで乾くから」
呆れたように言われて、反論も出来ない。
……確かに今更だなと思ってしまって、ぐ、と詰まって、また俯いた。
はあ。だめだ。これ。
早く家に帰って、1人になって、考えたい。
こいつ居たら、まともに何も考えられない。
後書き♡
◇ ◇ ◇ ◇
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