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第105話◇「聞かない」*大翔

 ラブホを出て、すぐ表の道路に葛城の車。  車に気付いた先輩は、ものすごく嫌そうな顔をした。 「……葛城さん?」 「そう」 「……オレの事って」 「変な薬飲まされた所まで話した。その薬の事調べてほしかったから。その他の事は何も話してないから、すっとぼけてて良いですよ。何聞かれても返事はオレがするから」 「……分かった」  少し近づくと、葛城が出てきて、後部座席のドアを開ける。 「おはようございます。あの……葛城さんにまでご迷惑かけてすみません」  そんな風に謝ると、葛城は、ふ、と優しく瞳を緩めた。  ――――……珍しい。そんな顔。  ちょっと珍しいものを見た気分。 「雪谷さん、おはようございます。体調は大丈夫ですか?」 「あ、はい……大丈夫です」  先輩がかなり決まりが悪そうに葛城と話してる。  まあそりゃそうだよな。 「とりあえず、乗って」  オレは、先輩の背を、軽く押した。  奥に先輩を入れてから、「悪い」と葛城に伝える。「全然、構いませんよ」と笑う葛城に軽く頷いて、オレも車に乗り込んだ。 「先輩、着くまで寝ててもいいよ」 「――――……眠くないし」  先輩はそう答える。でも、それから、10分もしない内に。  ウトウトしだした。  肩に手をかけて、オレの方に寄せると、ん、と動いたけれど。  寝てていいから、と伝えると、そのまま眠ってしまった。  多分相当、体が参ってるんだろうなと思って、そのままオレの太腿に頭を乗せさせて、軽く横にさせた。  そのまましばらく、黙ったまま、車の窓から流れる景色を見つめていたけれど。 「――――……葛城」 「はい」 「――――……オレ、すっげー首突っ込んだ」 「……でしょうね」  その返事に、苦笑いしか浮かばない。 「何。……分かった?」 「分かりますよ」  葛城は笑いを含んだ声で言う。  まあ。どう聞いても、葛城のも、苦笑いだけれど。 「――――……かなり色々抗ったんだけど」 「はい」 「……無理だった」  はー、とため息を付くと、葛城はしばらく黙ってから。 「かなり抗って考えた末なら、もう仕方がないんじゃないですか?」 「――――……」 「無理だったんでしょう? 放っておくことが」 「……ああ。無理――――……つーか……」  下で、眠っている顔を見て。  はー、とため息。 「なんか、話し始めた最初から――――……無理だったかも」 「………でしたら、尚更、仕方がないですね」  今度は苦笑いではなくて、クスクス笑って、葛城は、バックミラー越しにオレを見た。 「お前、反対しねえの?」 「――――……面白い事を聞かれますね」 「面白いか?」 「反対したら、聞くんですか、大翔さん」 「――――……」  ミラー越しに見つめ合ったまま聞かれて、言葉に詰まった所で、視線が逸らされて、車が発進した。 「……聞かないか、オレ」 「聞かないですよね」  そーだな。  ……聞かないな。  こんだけ考えて、決めたんだ。  ――――……周りに何言われても、関係ない。    起こさないように、背中に軽く触れてなんとなく支えながら。  寝顔を見つめる。

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