106 / 542

第107話「災難?」*大翔

「――――……」  無邪気な寝顔、見てると。……可哀想かなと思わなくもないんだけど。  この人的には、変な薬を飲まされて意味も分からず、  意識無いまま後輩に迫った挙句、抱かれてしまって。  その相手に、これからオレが抱くからと宣言されるとか。  すげー災難なんだろうなと思う。  意識朦朧としてる間に、なんてことになってしまってるんだろうと、思うよなぁ……。可哀想だなと思わなくもないけど。  ――――……まぁ、言う事聞かず、クラブなんか行って、知らねー奴から貰った飲み物なんか飲んで。あんな事になるとか。もう自業自得だし。  そんな事になる可能性がある所に、今までみたいに送り出す事なんか、絶対にできない。そう思ってしまうので、可哀想だとは思うけど、伝えた言葉を覆す気は一切ない。  ……ほんとに、カズキのことが好きだったんだろうなと。  それだけは、感じるけど。  何があったか、全部聞きたかったけど――――……。  あんまりきつそうな顔をしたから、最後までは聞けなかった。  まあ、どんな話だったとしたって、結局、好きな奴と付き合って。心変わりで振られる。これにどんな条件が入ったとしても、結局の所はただそれだけなんじゃねえの、フラれるって。  ――――……何で、こんな風になっちまうのかな。  しかも、カズキは、先輩に連絡して会いたがってる、みたいだし。  こんなに傷つけて振った相手に、また会いたいって――――……。  いつか万一会ったら、先輩って、どーなんの。    はー。ほんと。  ――――……モヤモヤすんなあ……。  その時までに。どうにかできなないかなあ、この人の事。  ……触れてる髪の毛が、柔らかい。  なんか、猫みてえ。  可愛い顔して、近寄ってくんのに。急に警戒心剥き出しにして、どっかに逃げようとする。  またため息が漏れる。 「葛城」 「はい?」 「……よく分かんねえけど。迷惑かけるかも」 「――――……どういう意味ですか」  葛城は苦笑い。 「分かんね。――――……なんかこの人普通じゃねえから」 「――――……」 「めんどくさい事ありそうだし……」  はー……。 何でオレ、よりによって、ここに行くかな……。  ため息を付きながら、前髪を掻き上げて顔を上げると。  葛城とまたバックミラー越しで目が合う。 「――――……それでも、関わるんですよね?」 「……ああ。もう決めた」 「じゃあ分かりました。構いませんよ、迷惑も」 「――――……サンキュ」  ため息交じりに礼を言うと。 「大翔さん、ため息はつかない方が良いですよ」 「……幸せが逃げる?」  なんか前にも言われたなと、苦笑い。 「ため息を付いたら、どうしたらいいと伝えたか覚えてますか?」 「――――……ああ。吐いた後に吸って、また吐くんだろ。深呼吸にしちまえば、体にいいとか言ってたよな。……誰が言ってたんだっけ?」 「そういう話をどこかで見かけただけですが……正しいかは知りませんけど、深い呼吸は体にも、心にも良いらしいので」  クスクス笑って、葛城が前に視線を戻す。 「まあとにかく、この人の前では、つかないようにする」 「そうですね」  葛城の声が笑いを含む。 「まあ、前から言ってますが、人の道に外れない限り、味方で居ますよ」 「はは。――――……これ、世間の一般常識からは外れるかもしれねーけど」 「そこらへんの常識なんて、変わりますから」 「……ああ。そっか」  人の道、ねー……。  ……大事にしたいだけだから。外れねーか。

ともだちにシェアしよう!