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第115話「何で」*奏斗
マンションについて、部屋の前で四ノ宮は足を止めた。
「先輩、今日オレんち泊まって」
「――――……」
「だから、もう着替えとか歯ブラシとか、必要な物一式持ってきて」
「……オレ、もう大丈夫、だよ? そんなに、体調悪くないし」
「顔色、良くない。ご飯とか用意するのも面倒でしょ。今日明日は世話してあげますよ」
「――――……」
「じゃ、待ってるから」
そう言って、四ノ宮は、自分の部屋に入って行った。
何だかな……そう思いながら、自分の部屋の鍵を開けて、部屋にあがって。
言われたまま、デカいエコバックみたいなのに、着替えとか詰めていく。
……何で言われるまま、こんなもの詰めているんだろうか。
――――……何か頭が、考える事、拒否してるみたい。
でも多分、1人で家に居ても、四ノ宮の事、考えてしまう気がして。
抱くとか、平気で言うけど。冗談なのか、本気なのか、よく分かんないけど。とりあえず、ちゃんと話さないと。万一本気で言ってるなら、そんな気ないって言わないと。
世話してくれるとか、してもらいたいとか、そんなんじゃなくて。
こんなよく分かんない状態で離れて、また学校が始まって、普通に過ごしてゼミまで会わないとか、正直、耐えられない。
で、ゼミで、皆の前で普通に会うとか。ありえないし。
だったら、この土日、すごい嫌ではあるけど、一緒に過ごして、気になる事はちゃんと話して、すっきりして、平日の学校を迎えたい……。
うん。行くしかない。
このまま、なんて、無理だもんな。
大体さ。
何で、あいつ、オレを抱いたの。
……オレがもし、普通に女の子が好きだとして。
まあそこそこ縁のあるゲイの男が、変な薬飲まされて、乱れてたとして。
そしたら、もしかしたら、最悪、最大限努力して。
手伝ってあげる位なら、可能性、もしかしたら、1パーセント……いや、3パーセントくらいなら、有るかもしれない。触ってあげる位なら。
……抱いてあげる可能性は、どこまでいっても、ゼロだ。
アホでどうしようもないそいつに、口でされて、一瞬反応してしまったとしても。……絶対、止まるはず。最後までなんてしないと思う……。
しかも。
四ノ宮にとって、オレって、お隣さんで。大学のゼミの先輩で。そんな事してしまったら、結構面倒な相手だろうしさ。
その上、オレって、ゲイで、恋人も作らず、だらしなく遊んでるアホな人。なんだろうし。
……普通、そんな奴、抱きますか??
もう何なの。すげーたまってたとか??
それで、もう、本当に、誰でも良かったとか?
――――……何だかもう、考えてると、かなり自虐がちょいちょい入ってきて、勝手に落ち込んでいくけど。
「――――……」
不意に、四ノ宮のセリフが頭に浮かんできた。
オレが誰かに抱かれに行くのが嫌だったって言ってたな……。
まあそこは、すごく心配してたのも分かってるから、嫌だったというのは、分かる気がする。
……でもその後言ってたセリフ。
自分が抱けるって分かったから、もう他の奴に抱かれたりさせないって。彼氏が出来るなら良いって。
……さっぱり、分からない。
四ノ宮に、何のメリットがあんの? 男なんて、好きじゃないだろうに。
詰め込んでた袋に手を置いて、しゃがみこんだまま。
しばらく動けなくなった。
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