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第116話「混乱」*奏斗
泊まり用の荷物とスマホと鍵を手に、四ノ宮の部屋のチャイムを鳴らす。
すぐに鍵が開いて、四ノ宮が出てくる。
四ノ宮は靴を履いて、小さい鞄を持ってオレと入れ替わりに外に行くみたい。
「どこ行くの?」
「下のスーパー行ってくる。速攻戻ってくるから」
「オレも行く?」
「良いよ。バスタオルとか出しといたから、シャワー、浴びちゃって」
「ん??」
「もう、そっから今日は、ベッドの上で良いでしょ?」
あ、ベッド入る前にシャワー浴びてって事か。
「……それならオレ、自分の部屋で浴びてくるけど」
「遠慮しなくていいから、浴びといてください。すぐ帰って、昼ご飯作るから。食べたいものあります?」
「――――……何でも」
「分かりました。食べやすそうな物、作るから。行ってくる」
そう言うと、ドアに鍵をかけて、四ノ宮が行ってしまった。
しーん。
家の中、静か。
――――……四ノ宮の家に1人取り残されて。
えーと。と、首を傾げながら、荷物を置いて、バスルームに行くと。
バスタオルやドライヤーが用意されてて。
……なんてマメな、と苦笑してしまう。
もうなんか、拒否するのも、抵抗するのも、疲れてきた。
今日明日はお世話するとか言ってたから、なんかよく分かんないけど、オレの世話するって、決めちゃったんだろう、あいつ。
……とにかく、後で、色々話そう。
もうしょうがなく、家主の居ない部屋で、バスルームに入って。
シャワーを浴びて、部屋着に着替える。ドライヤーで髪を乾かしてる所に、四ノ宮が帰ってきた音が聞こえて、ドライヤーを止めた。
脱衣所のドアを開けて、玄関を覗き込む。
「おかえり。早いね」
「ただいま」
ふ、と四ノ宮が笑んでそう言う。
靴を脱いで上がってきて、オレの前で止まる。
「お昼、パンで良い?」
「うん。ありがと……」
「髪、ちゃんと乾かしてきてくださいね」
「うん」
オレが頷くと、微笑んでリビングに消えていく。
「――――……」
何となく、んー……と考えながら。
オレは、またドライヤーのスイッチを入れた。
髪を乾かしながら。今の会話をちょっと思い起こす。
――――……なんか。
……四ノ宮って。……あんな感じだっけ。
なんかやっぱり違うよな?
今までもっと、なんならちょっと、喧嘩腰な。
……オレも良く言い返してたような。
……四ノ宮も呆れたり、むっとしてたり。
ポンポン言い合うのが、嫌じゃなかったけど。
――――……何か。なんだろう。
何が違うんだ。眉間にしわが寄らなくなったのが大きいのかな。
あの変化の意味が、全然分からねー……。
髪を乾かして、リビングに行くと、四ノ宮がキッチンで忙しそうで。
「手伝う?」
そう聞いたら、マジマジと見られて、首を振られた。
「休ませるためにここに来てもらってるのに、んな訳ないし」
言いながら水を注いだコップを渡される。
「ソファで休んでて。すぐ作るから」
「……うん」
もうなんか、ほんとに逆らう気力は奪われ。
コップをなんとなく握り締めながら、ソファで休んでると。
「飲み終わった?」
「あ。うん」
「コップ、もらうね」
コップを受け取って、四ノ宮が歩いてく後ろ姿。
――――……何だか。至れり尽くせりで。
困るんですけど。
ひたすら無言で困っていると。
少しして、出来たよ、と呼ばれる。
コンソメスープと、ツナと卵のホットサンドと、カフェオレ。
「……美味しすぎるんだけど」
そう言ったら。
「つか、何その褒め方」
四ノ宮は、クッと笑う。
「美味しい、だけで良くないですか?」
続けてそう言われるけど。確かに、そうなのだけど。
だって。
なんかこんな至れり尽くせりで。
ご飯まで、美味しすぎるとか。
なんかもう。なんなのって感じで。
超複雑な気分で、とっても美味しい昼ご飯を食べ終えて。
食べ終えて、暫くすると、ベッドに入ったら?と言われた。
正直、今は、全然眠くない。
ちょっとダルイのは、薬のせいか、初めて飲んだアルコールがいけないのか、深夜まで、あんな事してたからかもしれないし。まあ仕方ないと言える程度。でも。……1人になりたくて、その言葉を受ける事にした。
ベッドについて来られて。布団を掛けられて。
「――――……」
まっすぐ見つめられて。目を逸らせずにいたら。
「――――……」
不意に。
暗くなって。
「――――……」
キス。
されてしまった。
「――――……ゆっくり休んで」
前髪を、掻き上げるように撫でられて。
驚きすぎて、固まってるオレに、ふ、と笑んで、部屋を出て行った。
「――――……っ」
唇に。
手の甲で、触れる。
何で今キスされた、オレ。
――――……ああ。もう。
なんかもう。意味分かんない。頭ん中。混乱しかない。
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