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第117話「よく分からない」*大翔

 葛城の車で一緒に帰ってきて、部屋に来るように伝えた。  時間を置いて、先輩と離れる事に、何のメリットもないと思ったから。  どうせ先輩は、きっと1人で色々悩む。  オレの伝えた言葉の意味を勝手に考えて、ただ悩みまくるに決まってる。  だから。心配だからと言って、ほぼ無理やり。  ただ来てと言っても来ないだろうけど、心配してると言えば断れない人だから。  弟のバスケの大会も、とりあえず車で行き来すればそこまで疲れないと思ったし。良い気分転換になったかも。勝てて良かったし。  連れて帰ってきて、オレの部屋に来させた。    媚薬なんて、まあ、抜ければ問題ないだろうし。  アルコールだっていくら初めてで弱くたって、分解しちまえば何の問題も無いだろう。あとは、昨日遅くまで抱いてたのと、あとはもう。精神的ダメージかな。  顔色があんまりよくないのは本当で。  何だか疲れてる風に見える。  ――――……倒れるとかは思っていないけど、心配だったのは本当で。  それで来させたんだけど。  なんか、居心地悪そうにちょこんと座って。  オレの出したものを飲んで、食べて。  美味しい、とほわん、した顔をして。  なんかそういうのを見てると。  ――――……なんか、当初の目的と、ちょっとズレてきてる気がする。  心配だったし。飯とか適当に済ませそうな気がしたし。  しょうがねえな、世話してやろうとは思ったんだけど。  ――――……?    なんだろう、この感覚は。  初めてすぎて、よく分からない。  昼にホットサンドを食べさせて、少し時間が経ってから、ベッドに寝かせようと思って、連れて行って。布団をかけてやった。  多分あの人は。  世話されまくってる事態についていけなくて、戸惑いまくりで、ただ、オレを見上げただけなんだと思う。  布団に埋められて。  ただ、ただ、見つめてきただけ。  ――――……なんだろ。  ちょっとここからよく分からない。 「――――……」  キス、してしまった。  先輩は、めちゃくちゃびっくりした顔をして、オレを見ていて。  それを見てたらまた、よく分からない感覚で。  その感覚のまま、動いたら。  先輩の前髪に触れて、掻きあげて。  その瞳を見つめて。 「――――……ゆっくり休んで」  その言葉は。  ……心の中から、まっすぐ、でたイメージ。  何も、考えず。  ――――……ただまっすぐに口にしたら。その言葉だった。  びっくりしてる。  キスしたから。  撫でたから。  分かってる。  何か言わないと。と、何となく思うのに。  でもそれ以上何も、言葉が見つからなくて。  オレは、その部屋を、出てきた。  何だか全然よく分からないまま、ゆっくりリビングに戻ってきて。  ふと、テーブルに出たままの食器に気付いた。  片づけるか。  とりあえずやるべき事を、終わらせようと思って、食器を洗い始める。 「……美味しすぎるんだけど」  なんか変な褒め方をして、戸惑いまくってる先輩が、ふと頭をよぎる。  ふ、と、勝手に笑みが零れた。  ――――……なんか。  すげえ、可愛かった、な。  …………顔が、可愛いのは、知ってるけど。  そうじゃ、なくて。  ――――……?  なくて、なんだ?  何だかよく、分からない。  捨て猫。拾ってきて。懐かなくて。  ぼくは野良でいいんだとか猫が言ってて。  でも、世話してやってると、ちょっと寄ってきて。  もうちょっと、世話してやろうかなと思う。  ……そんな感じ?  で。  それに。キスするっていうのは、一体。  朝の、キスから覚えろとか言った、我ながらひどいセリフでしたキスとは。  何だか根本的に、違う。  無かった事にはさせない。キスから慣れさせる。触る事もセックスも。もうオレがするって決めたから。先輩に拒否する権利なんか無い。  そう思いしらせようという意味のキスだった朝のキス。  とは。  違った。  ――――……ような気がして。  皿を片付け終えて。  ――――……ソファに座って、しばらく動けず、考えていたけれど。  結局はっきりとは、分からなかった。

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