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第118話「カフェオレ」*大翔

 しばらく考えて。  よく分からないから考えるのをやめた。  コーヒーでも飲もうと思って、キッチンに立つ。  ――――……先輩、寝たかな。……飲むかな。  カフェオレとかのが良いか。  自分の部屋の寝室をそーっと開けて。  しばらく様子をうかがう。動く気配は、無い。  中に入って、先輩の顔が見える所まで歩いて。  ――――……やっぱ、寝ちゃうんだな。と、笑んでしまう。  学校で見かけるこの人は、いつも人に囲まれて楽しそうで。とても元気だから。こんなぐったり、昼寝するとか無さそう。  ――――……多分、体なのか気持ちなのか。ダメージでかいんだろうな。  そっと、手を伸ばして、その頬に触れる。 「――――……」  怒ったり。泣いたり。乱れたり。――――……笑ったり。  なんか本当に、色んな顔を見てる気がする。  ……なんか。傷ついてるみたいな顔が、一番。残ってる気がするし。  どんだけ歪んでんのかなと。オレに思われるって相当だし。  ……ほんと色々、面倒くさい。  そっと、手を離す。  先輩から離れて、ドアをそっとしめた。  ほんとに。こんなめんどくさい人、居ない。  ゲイで。歪んでて。隣に住んでて。ゼミ一緒で。……何故か協定なんか結んだし。  ――――……なんか。  いつものオレなら。関わらないか、上っ面だけ関わって終わりにする。色々環境的に距離が近いから、よりめんどくさいし。  キッチンに戻ってコーヒーの準備をする。  コーヒーの香りがたちはじめて。  深呼吸。 「――――……」  自分の事すら、色々意味が分かんねえし。  面倒くさい人だって思うけど。  放っておけないとか。  ――――……思うの初めてだもんな……。  コーヒーを淹れ終えて、ソファに座る。  土曜の、午後。  天気もいいし。――――……静か。  出かけもせず。ぼんやりしてるとか。あんま、無い。  窓から空を見上げて。気づけばもうすっかり冷めたコーヒーを一口飲んだ時。  部屋の奥で、かちゃ、と音が聞こえた気がして、ドアの方を振り返ると。  先輩がそっと顔をのぞかせた。 「少しは眠れました?」 「……うん」  まだぼんやりしたまま、先輩が近づいてきて。  ソファの端に腰かけた。 「……何かオレ、寝てばっかじゃない?」  苦笑いで、ゆっくり話す先輩に、何だか、柄にもなく。   ――――……優しい気持ちに。なる。ような。 「……昨日疲れたんでしょ」  ――――……オレに抱かれて。キスされて。  さっきだって、寝る前キスされて、固まってたのに。  警戒してもおかしくないのに。  ソファの端っこに、座ってくる先輩。  ――――……何だかなー。警戒心あるようで、全然ない……。 「先輩も、コーヒー飲みたい?」 「んー……」  先輩はオレが飲んでるコーヒーをちょっと見て。  少し固まってる。ちょっと笑ってしまいながら。 「ブラックは嫌? カフェオレにする?」  聞くと、ぱ、と嬉しそうな表情。   「いいよ。待ってて」  笑ってしまいながら、立ち上がる。 「あ。そーだ……先輩?」  先輩の前を通り過ぎるところで立ち止まって、先輩を見下ろす。 「――――……少しは顔色、良くなったね」  まあ、良かった。  自然と、ふ、と笑むと。    先輩は、じっとオレを見上げて。それから、うん、と頷いて、そのまま、足を持ち上げて、ソファで膝を抱えた。 「あ。先輩、甘いのが良い?」 「……うん」 「了解です」  先輩を残して。キッチンに向かう。  ……うーん。  これは。  よく分からねえけど。  ……甘やかしたくてしょーがない。んだろうか。  なんか。  ちょっと前から、そんな傾向があったような気も、僅かにしていたけど。  ――――……なんか、今、ものすごい、そうかもしれない。

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