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第119話「ほっといてとか」*大翔

「はい。どうぞ」 「ありがと」  自分のコーヒーも淹れなおし、先輩のは甘いカフェオレにして、ソファに居る先輩に渡した。  そのまま、さっきの位置に座る。  2人で、ソファの上。  土曜の天気のいい午後。  窓際のソファに2人で並んで。ただコーヒー、飲みながら。 「――――……美味し……」  オレに言う、というよりは、自然と漏れたような感じで呟きながら、ふーふーして飲んでる。  ――――……何だろうなぁ。この気持ち。  全然分かんねえけど。まあいいや。 「先輩、夜、何食べたいですか?」 「……何でもいいよ」 「何か言ってくれた方が、作りやすいんですけど」 「……四ノ宮が食べたいものは?」  逆に聞かれてもなあ……。  せっかくだから、好きなもの作りたいのに。と思ったら。 「作るの、何でもおいしそうだから。ほんとなんでもいー」 「――――……」  なんか。少し、ドキ、とする。  ちょっと嬉しい?ような。  そんなオレには気づかず、先輩は、少しの沈黙の後。 「……あのさー、四ノ宮」 「はい」  あんまり明るい話題ではなさそうな口調。  先輩が話すまで、黙って待っていると。 「……昨日の事はさ。なんか。すごく反省、してる」 「――――……はい」 「……なんかお前と喧嘩して……というか、オレが怒って、クラブ行って。いつもなら気を付ける事も、気をつけなくて…… なんか、もう、すぐ帰るからと思って、貰ったもの飲んじゃったり……」  オレには視線を向けず、カフェオレの表面をじっと見つめたまま、先輩はゆっくり、話す。 「……前に寝た人も、なんかオレの方、見てた気がして、目を逸らしてたんだけど、なんか――――……あんまり気にせずトイレ行っちゃって、2人きりになっちゃったり。あれもほんとなら……もうちょっと、気を付けてた筈で。それを助けてもらったからって、あの2人をちょっと信用しちゃったというか……断れなくなっちゃったというか」 「――――……はい」 「……今まで何度も、クラブ行ってたけど。昨日、ほんとにオレ、ダメだったと、思う」  そこでようやく、先輩はオレを見た。 「多分お前が来てくれなかったら、オレ、その2人とホテル行って……まあ。ちょっとあんまり良くない事になってたんだろうなと思うし……」 「――――……」 「だから……昨日のオレ、ちゃんと反省する、から」 「だから?」 「……危ない事、ちゃんと気を付けるからさ」 「――――……」 「……だから、お前が相手、するとか――――……そんなの、しなくて大丈夫だよ」  言うと思った。  ……絶対、それを、言うんだろうなとは思ったけど。    まあ。分かってたから、別に腹も立たないけど。 「先輩」 「……?」  またカフェオレを見ていた先輩は、ふと、オレを見つめ返す。 「……彼氏ができるんじゃなかったら、無理です」 「あのさ……それが、よく分かんないんだけど……」 「恋人なら仕方ないですけど。……どうでも良い奴に抱かれる先輩、許せないんで。無理です」 「――――……でも、それ、四ノ宮が無理って言う事じゃないじゃん」  ……まあ。そりゃそうだけど。  ――――……でも、絶対無理だな。 「……四ノ宮、オレさ」 「はい」 「恋人、作る気、無いの。ずっと」 「――――……」 「ずっとだよ? もう、一生。作んなくてもいいと思ってんの」 「――――……」 「……オレがさ、恋人、一生作らなかったら、どうすんの?」 「――――……」 「一生、お前が、オレとすんの? ……つか、おかしいでしょ、それ」  先輩は、また、下に目線を移した。 「だからさ。オレの事はほっといてくれて、良いよ?」  投げやりと言う訳でもなく。  普通の事のように、一連のセリフを口にして。  最後、先輩は「オレ、大丈夫だから」と言って、にっこり笑って見せる。  ――――……全然普通の事のように。  ほっといて。と笑顔で言われて。  ため息は、つきたくないのだけれど。  ――――……深くついてしまいそうで。数秒息を止めた。  

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