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第120話「覚悟」*大翔
先輩の言いたいことは、分かる。
――――……ずっと恋人を作らない、という所をのぞけば、変なことは、言ってない。昨日の迂闊なとこも、反省したのなら、次からもっと、気を付けるだろうと思う。
オレに会うまでの1年以上、特に危ない目にも遭わずにやってきたなら、まあそこそこ気を付けて来てはいたんだろうとも思う。
――――……だから大丈夫だと、いうのも。
オレに、相手をしてくれなくていいよ、というのも。
オレに気を遣わせないように、笑顔で、大丈夫と言い切るのも。
それは、分かる。
でも。――――……そんなの受け入れられる位なら、元々、手なんか、出してない。
「……先輩」
「――――……うん?」
「一生恋人要らないなら、一生付き合いますよ」
でっかい瞳が、大きくなって。
は? と首を傾げてる。
「まあ一生、つーか。 先輩がそう言う事をしに外に行く年齢、まで?」
「――――……」
「じーさんになってまでしないでしょ」
ふ、と笑いながら言うと。
――――……先輩は、めちゃくちゃ眉を寄せて。
「……ちょっ、と、待って……」
カフェオレ、持ってられなくなったのか、ソファの前にあるテーブルに置いて。
それから、完全にソファの上に乗っかって、また膝を抱えて。
膝の上に顔をのっけて、固まってしまった。
「――――……」
しばらく、先輩から何か言ってくるのを、コーヒーを飲みながら待ってると。
「……宇宙人にもほどがあるんだけど……」
俯いたままで、先輩がそんな風に言う。
思わずクッと笑ってしまうと。
じろ、と睨まれた。
「笑いごとじゃねえし。全然、意味わかんねえし。お前、今、何言ったか、分かってんの……?」
「分かってますけど」
「……オレがそういう事しなくなるまでって。……すげーずっとそういうのが強かったらどーすんの」
「いいんじゃないですか。付き合いますけど」
「――――……70才とか80才とか」
「ある意味すごいですね」
クックッと、笑ってしまうと。
「……っっだから、笑い事じゃ――――……」
そこまで言って、また俯く。
「あーもう……」
なんか、膝の間でブツブツ言ってる。
「――――……全然意味がわかんない……」
まあ。そうだろうね。
――――……オレが、今までどんだけ嫌だったかも。
でも抱けないと思ってたから、譲歩してたのも。
発情してるあんたに迫られたって、そこに行かないように、どんだけ耐えたかも。――――……どんだけそれに抵抗して、でもそれでも。
どんだけ覚悟、決めて、あんたを抱いたかも。
――――……知らないもんな。
別にいい。それは、これから、分からせるし。
「別にすぐ、考えなくてもいいし、分かんなくてもいいですよ」
「――――……」
「とにかく、オレは、あんたの側に居るから」
「――――……だから。オレ、1人で平気だってば……側に居てなんて、頼んでないじゃん……」
「頼まれなくても、居ますよ」
「――――……迷惑、て言ったら?」
「迷惑って言われても」
言い切ると、先輩は、今度は、眉毛を完全にハの字にして、はー、とまた膝に埋まる。
「つーか、迷惑かけてンの、今んとこ、あんただけど。そこ分かっといてね」
「う……」
少しだけ顔を上げて、嫌そうにオレを見て。
また埋まってる。
ぷ、と笑ってしまうと。
「笑うな……宇宙人」
突っ伏したままの先輩から、そんな言葉が飛んでくる。
――――……なんかこんなやり取りが面白いとか。
オレ、やっぱ、かなりおかしいな。まあ。宇宙人じゃねえけど。
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